「夢も希望もない」
と、そらが云った。
何故だ
「だって、うちビンボーだし、…」
「だからって、夢も希望もないの? 幸せになるための、努力はなし?」
「努力するって言葉はキライ」
努力、根性、忍耐、って言葉はキライ。へえ…そうなんだ。
「ふっ…私はこの年になっても野望があるよ」
「野望とか云わない方がいいよ」
「なんでよ!?」
なんか白けてきた。
でも、そらは、私の稼ぎだけでは、きっと専門学校すら行けず、
普通に大人になって働く? みたいな、ごくありきたりな将来しか思い浮かばないらしい。
どこかに行きたくても、飛行機に乗って落ちたら嫌だし、乗らないもん。
なんか、お疲れみたいだった。
ま、そのうち何か掴むであろう若者だ。
どんな大人になっても、そうであってほしいことを云っておいた。
自分がどんな人間であろうと、弱者を救うひとであれ。
「ジャクシャってなに?」
「女、子供、年寄、病人だよ」
「ああ…へえ~…」
「それくらいの愛や、気持ちがない人間なんてひとらしくないと思う。
動物と同じだ。いやむしろ動物以下だ」
人間性を失うな。
固く働け。
自立しろ。
何をやっていてもいいんだよ。
それを、天は絶対見ている。
大丈夫、君は絶対いい人生を送れる。
だって私の娘だもん。
「母さんの底力を思い知るときがくるよ」
これは嘘ではなかった。
きっと、試験勉強で疲れてるのね。
私もそれに付き合って疲れていたけど、
夢はいつも心の奥にそっとしまっておくのだ。
元気になったら取り出して、お日様の下に出せるように。
娘は、最近、炬燵で勉強して、よく居眠りをするようになった。
疲れているんだろう。
そういう時期はあるし、
それが癒されるときもある。
早く癒されるように、
今私にできることはご飯を作ってあげれる程度のことだけど。
…はあ…
じいさんも帰ってくるしな。
私も疲れすぎないよう、うまくやらなきゃね。
とりあえず、長い冬がくる。
私が大好きな季節。
きっと元気にやりすごせると想うよ?