PSW研究室

専門職大学院の教員をしてる精神保健福祉士のブログ

PSWにとってのメディア

2010年06月16日 09時41分09秒 | PSWのお仕事

↑こんな背表紙の『精神保健福祉』を、ご存じですか?
日本精神保健福祉士協会の機関誌です。
PSWの方なら、見たことはあると思います。
でも、資格登録者に占める協会組織率は20%程度ですし、読んだことない人が多いんですかね?

昔々は『精神医学ソーシャルワーク』という雑誌が、年1回発行されているだけでした。
現在の形になったのが第40号からで、1999年のことです。
年4回発行されていて、現在、通巻80号です。
PSW協会が、「日本精神保健福祉士協会」という名称に変わった時に出されました。

1999年、会長の門屋充郎さん(当時)に、協会の常任理事就任を口説かれました。
どうせやるならと、広報出版部の担当にしてもらいました。
会議は最小限で少なく、家でコツコツできる仕事を希望しました。
また、僕としては、この機会にPSWの新しいメディアを創りたいと思いました。

僕自身が目指していたような「PSWのメディア」を創れたか…というと、不完全燃焼でした。
もっともっと、色々なことをやりたかったのですが、僕自身のメモリーが不足していました。
日本でインターネット常時接続環境が当たり前になるのは、僕が思っていたより遅かったですし。

今なら、SNS(mixi)やミニブログ(twitter)の類も、初期から導入するでしょうね。
mixi一社のPSWコミュニティだけ見ても、既に協会の構成員数を超えていますし。
やっぱりメディアは、双方向性があって、楽しくないとね?
まだ20世紀の当時は、掲示板を設ける提案にも抵抗が強く、利用者もあまりいませんでした。

今では誰でも検索して、新しい情報をほぼリアルタイムで入手できるようになりました。
PSW協会のHPの充実度は、他団体に比べても遜色なく、豊富な情報を発信しています。
事務局長の坪松真吾さん、広報担当の依田葉子さん等、事務局スタッフの尽力によるものです。
もはや、情報にアクセスできるかどうかは、個人の側の意欲の問題になりつつあります。

リニューアル発刊から11年を経た現在も、機関誌の形態は、ほとんど変わっていません。
でも、i-padの登場で、紙への印刷中心のメディアは、大きく変わってくるでしょう。
次世代のメディアに対応した、情報発信が求められてきます。
個々人が豊かに発信し、交信することで、PSW総体のポテンシャルも上がっていくでしょう。
データのやりとりだけなく、お互いをエンパワーしていけるようなメディアを創っていかないとね。

新しい時代に即した、新しいメディアの形と、新しい発想の専門職の姿。
新しい情報を的確に把握し、自身で咀嚼し、発信し、ユーザーに伝えていくこと。
既存の制度にただ依拠するのではなく、見通しを持った資源開拓にも取り組んでいくこと。
それが、PSWが新しい事業をマネジメントしていく上での、前提にもなってきます。

もう遙かひと昔前の話ですが、協会誌に寄稿したものを、以下に掲載しておきます。
時代の限界もあり、ちょっと力が入っていて、長いですけど…(笑)
新しくPSWになった方々が、新しいメディアを構築していく参考にでもなれば…。
現在の協会の基盤作りに取り組んだ、ひとりのPSWの想いを汲み取って頂ければ幸いです。

もはや、老兵はただ消え去るのみ…。
…って、それほど老いてはいませんがぁ~(^o^)

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JJPSWNo.58 協会40周年特集号原稿(2004年6月発行、158~159頁所収)

PSWのメディア・ストラテジー

国立精神・神経センター武蔵病院 古屋龍太


■組織としてのメディア改革

今日メディアは氾濫し、風景と化しつつある。
情報の交通手段としてのメディアは、急速に変態し増殖し、大量に消費されている。
それでも対人援助サービスを生業とするPSWの領域では、情報は資源となり、生きた手段ともなる。
コストを自己負担する参加型組織では、メディアは個人が組織を共有する基盤となる。
メディアの享受によって、構成員は自らが組織の一員であることを意識する。
メディアは組織のエビデンスであり、アイデンティティを形成する。
グーテンベルグ以降、メディア抜きに組織は成立しない。

協会が前世紀から持つメディアとしては、機関誌『精神医学ソーシャル・ワーク』と通信紙『PSW通信』がある。
前者は歴代編集委員会による企画特集もあるが、多くは毎年の全国大会のライブレコードとなっている。
いずれも、PSWの歩みを振り返る上では貴重な記録となっている。
しかし、テープ起こしされたテキストスタイルの原稿は、編集加工されていないために読みづらく、細かく読む会員は少なかった。
一方、『通信』は会員への情報伝達を目的とした通信紙である。
精神保健福祉領域の流動化の中で、理事会議事録を逐語のライブレコードで掲載するなど、広く会員の衆目を集めた。
しかし、その編集は事務局PSWらの家内制手工業による入力作業に委ねられ、組織を担うこととなった個人の努力に負ってきた。
組織としての情報流通システムを、抜本的に改革する必要があった。

■組織再編とメディア構築

筆者は1999年の「日本精神保健福祉士協会」への組織再編とともに、常任理事に推挙され、協会のメディアを担当することとなった。
広報出版部が当面担当する事業は、三つあった。
①新しい機関誌『精神保健福祉』の編集発行
②ニュースレター(NL)『PSW通信』の編集発行
③協会のホームページ(HP)のリニューアルと運用管理
②については、井之頭病院を中心としたニュースレター委員会(川口真知子委員長)に委ねた。
①③については、自ら委員長となり基盤整備に努めた。

三者はその機能もスピードも大きく異なる。
①の機関誌は協会の顔でもあり、ネットによる情報流通が日常となっても、紙に印刷する媒体の持つ機能は変わらない。
専門職としての価値と実践を検証する一方で、PSW共有の読み物を目指した。
学術刊行物の指定を取得し、『精神保健福祉』という商標登録も行った。
製作は、企画立案→討議決定→原稿依頼→執筆→入稿督促→入力→編集→校正→印刷→製本→発送という工程で具体化し、半年近くの時間を要する。
年4回の定期発行のためには、少なくとも2号分が同時進行しなければならない。
投稿原稿があれば筆者をブラインドしての査読を行う。
委員会で検討し受理・一部修正受理・修正再査読・却下の判断を行い、投稿者への再投稿を求める返書をまとめなければならない。
会議の開催案内、議事録作成と送付、委員会の会計管理等、庶務事項の処理も煩雑であった。
そのうち、見かねた編集委員会のメンバーが、徐々に役割分担してくれた。

②のNLも、紙に印刷するメディアである以上、要する手間と工程は一緒である。
隔月発行の年6回であるため、全ての工程を2ヶ月で回転させなければならない。
一方③のHPは、情報入手→加工編集→アップロードという簡便なプロセスでメディアが成立する。
経費も安価で済み、時代に即応したハイパーメディアとして無限の可能性を有していた。

■起動時の課題と不具合

どのように通信手段や端末のマシーンが大容量高速化されても、処理決定するのは人である。
情報の鮮度を落とさずにアップロードできるかは、時間との勝負となり、個人の処理能力には限界がある。
委員会メンバーも、当然のことながらそれぞれ現場を抱えており、協会の業務にあてられる時間は限られている。
機関誌編集とHP運用に関しては、実務面の外部委託によって、自身のノウハウ不足とメモリー不足を補った。
当然相応のコストがかかるが、当時の協会年間事業費の1/3を広報出版部予算に充てて頂いた。

それでも個人的には、2000年PSW東京大会の準備も重なり、協会関係の仕事に忙殺されることとなった。
病院の本来業務時間内にあれこれ行う訳にもいかず、これらの処理は深夜に及ぶプライベートな時間を当てるしかなかった。
睡眠時間は、ほぼ毎日3~4時間に圧縮されていった。

幸いにも、新しい『精神保健福祉』は大方に好感をもって受け入れられた。
しかし、、従来の機関誌と余りにも異なる編集スタイルは戸惑いと混乱も生んだ。
前年の北海道大会の報告集編纂にあたっては、現地との意思伝達を欠いた。
せっかくテープ起こしして頂いた、個人の営為をないがしろにし、問題となった。
東京総会の場で、責任者として北海道の皆さんに謝罪させて頂いた。

HPにおいては、会員専用ページの開設と自由に書き込める掲示板の設置が急務となっていた。
上層部からの一方向的な情報伝達でなく、ネットを通しての相互発信が可能な基盤整備を目指した。
一方、組織としての情報流通には、コントロール機能も必要である。
情報操作は悪しきもので、全て個人判断に委ねるべきという考えもあるが、情報そのものが歪曲加工されており、政治的に流通されているものも多い。
担当理事としては、外部メディアへの即時対応を含め、情報のバランスコントロールを図る政治的判断にも配慮した。

メディアは価値と権力も生む。
ネットのように、単に個人が自らの考えを世界に発信することと、組織として発行する紙媒体のメディアは異なる。
機関誌のように限りある容量の中でのページ占有は、他者が共有する価値を、喧伝し賦与することにもある。
大学等の養成機関の増加とともに、ペーパーは重要な業績となり、紙メディアへの掲載を自己目的化した投稿も散見されるようになっていた。
編集委員会による、公正なコントロールが重要になってきていた。

■果たせなかったメディア戦略

資源としての情報は、特定の人々の専有物にせず、広く希望する者がアクセスできるシステムを構築すべきである。
通信網の発達ともに、新たなメディアの開発が課題になってくる。
任期中に果たせなかったが、実現に向けて検討すべき戦略を3点挙げておく。

①メーリングリスト開設
委員会・県支部単位のネットワークの構築は、その気になればすぐにでも開設できる。
会議のための移動時間や、紙資料によるコスト節減・環境保護のためにも極めて有効であり、ランニングコストは殆どかからない。

②メールマガジン発行
HPとNLの中間に位置付ければ、具体化が容易な課題だろう。
HP上の更新情報や、印刷前のNL、事務局連絡などが配信されれば、PSWの情報量は飛躍的に増大する。
定期的である必要はなく、端末ツールは携帯電話でも構わない。
コンテンツ・メニューさえ明確であれば、読む読まないは個々の判断で容量も食わずに済む。

③ローカルネット構築
現在協会がHPで提供している情報量は、夥しい量になっている。
あらゆる精神保健福祉情報にアクセス可能であるが、未だ中央集権的である。
生活圏域に密着したローカルなエリアページが設けられると、日常の相談援助業務にも活用できよう。

個人的な家庭内事情により、僅か2年で常任理事を辞任することとなった。
機関誌編集委員会は、石川到覚さんを経て、柏木一恵さんに引き継がれた。
インターネット委員会は、同僚の三澤孝夫さんを経て、坪松真吾さんに引き継がれた。
たくさんの宿題を残し、後任者にはご迷惑をおかけしてしまった。

それでも、自分としては心血を注ぎ、精一杯やってきたつもりである。
願わくば、個々の会員が情報の受け手ではなく、発信者としてネットワーク構築に参画して欲しい。
メディアはPSWにとって、大きな力になるはずである。


※再掲にあたり、ブログ用に体裁を整え、少しだけ文章に手を入れました。



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