記憶のスクラップ・アンド・ビルド

当然ながら、その間にタイムラグがあり、
それを無視できなくなることこそ残念です。

原発のウソ:読後メモ

2011年07月20日 17時44分01秒 | Weblog
原発のウソ
小出裕章 2011/06/01 扶桑社新書

知らなかったこと、誤解していたことを気づかせてくれて、大変面白かった。
成程と思ったことの一つは、3.11直後の計画停電は何だったのか、ということについて。
原発は回復の目途が立っておらず、電力消費は増えているのに、その後は計画停電が無くて済んでいる。
節電を訴えるための脅しだったのではないかと単純に不信感を抱いているだけだったが・・・。
p.171
「今回の地震と津波で、原発が止まって、電力不足になったような印象がありますが、本当は違います。火力発電所が被害を受けたことが大きな理由です。」

日本の電気の30%は原子力だが、発電設備は18%に留まっている。原発の設備利用率を70%に上げ、火力発電所のそれは48%に抑えてきた。

原発は止めるべきだというのが著者の主張。
止めてみれば原発がなくても電力は足りることが分かるだろう、と云う。

原発依存を止めれば電気代が値上げになり、日本の産業が海外に逃げていく、そうなってはいけない、と説く人たちがいる。
しかし、日本の電気代は世界で最も高く、台湾や韓国の2倍、3倍。
そのため企業は自前の発電所を持ったり、あるいは既に海外に逃げたりしている。

太陽光発電などを代替とすれば、電気代は15%上がるかも知れない。
しかし原発が一番安いわけではない。
原発のために掛っている費用を税金などの形で国民が負担している部分が大きいことは既に周知の通り。

最も発電単価が高いのは揚水発電。
p.112
揚水発電は主に原子力発電のために存在している。
夜間は消費電力が減るが、原発は止められないので、余った電力を消費するために揚水発電所で揚水に使う。
エネルギー・ロスが3割ある。
原発のために必要な発電だが、そのコストは原発のコストに上乗せして計算してはいない。

現在止まっている原発は止まったままで、今後更に定期検査などで止まる原発が増えるのに、電力供給量の.見込みは増えこそすれ、減っていない。

天然ガスなどの発電所の稼働率を抑えていたが、それを復活させるのは当然。
揚水発電も埋蔵電力だった。
企業から買い上げ可能な筈の電力はまだカウントされていない。
(電力会社がスマートグリッドを拒否し、発電と送配電の分離に抵抗していることと関連しているのだと思われる)。

地球温暖化問題
脱原発は地球温暖化対策に逆行するという人もある。
実際は原発が前提としているウランの採掘・製錬・濃縮・加工・再処理・核廃棄物処理のために石油などの化石燃料を利用し、多量の二酸化炭素を排出している。

原子炉における発電では発熱量の3分の1が電気に変わり、残りは捨てている。

p.118
今日の標準的原発は発電量が100万キロワット。
原子炉の中では300万キロワットの発熱が有り、その3分の2は捨てられている。
原発は1秒間に70トンの海水を引き込み、その温度を7度C上げ、海に戻している。

日本には1年間に6500億トンの雨が降り、一部は地下水になり、川から海に流れるのは4000億トン。
現在54基の原発から流れ出る7度C暖められた水は1000億トン。
原発は地球温暖化を回避するために役立つどころか、寄与していると云うべきではないか。

資源枯渇問題
「化石燃料はいずれ枯渇する。原子力こそ未来のエネルギー源になる」という主張が有る。
これも嘘だ、と。
石油より先にウランが枯渇する。
石炭は使い切るまで1000年はかかる。
天然ガスも海底や地殻の深層に新たな埋蔵地域が発見されている。

核燃料サイクル計画
p.129
核分裂する「ウラン235」はウラン全体の0.7%しか存在しない。
原子力に夢を託す人たちは「燃えないウラン」をプルトニウムに換えて利用することを思いついた。
それが高速増殖炉を中心とする核燃料リサイクル計画。

1951年、アメリカで最初に原子力発電が成功。それが高速原子炉EBR-I。
しかし技術的にも社会的にも困難が多く、核開発先進国は高速増殖炉からは撤退。
日本は1967年に、1980年代前半を目途に高速炉の実用化を目指した長期計画を立てた。
以来、10年経過するごとに、実現を20年先送り。
2005年の「原子力政策大綱」では2050年に初めの高速増殖炉を動かしたい、としている。

「もんじゅ」
1977年に日本では最初の小型実験炉として「常陽」の運転をはじめた。
現在は事故で停止中。
1994年に敦賀市で、少し規模を大きくした原型炉として「もんじゅ」を動かし始めた。
翌年、出力を40%まで上げて試験を始めようとした途端、冷却材のナトリウムが噴出して火災になり、その後14年間止まっている。
2010年に、臨界が達成できるかどうかだけを調べる目的で試験運転し、「燃料交換炉内中継装置」を炉内に落下させるという事故。
こんな出鱈目な計画を作った歴代の原子力委員は誰一人として責任をとらないまま原子力界に君臨し続けている、と。

プルサーマル
高速増殖炉が直ぐにでも実現することを前提として、使用済み核燃料の再処理をイギリスとフランスに委託し、日本は既に45トンのプルトニウムを貯め込んでいる。
長崎型の原爆を作れば4000発も出来てしまう。

日本は使い道のないプルトニウムを持たないことを国際公約させられており、何が何でも始末しなければならない。
苦し紛れに考え付いたのが、普通の原発で使われている原子炉でプルトニウムを燃やすというプルサーマル計画。
石油ストーブでガソリンを燃やそうとする行為に似ている、と。

福島第一原発の3号機がプルサーマル運転。
政府と電力会社はプルトニウム入りの「MOX燃料」(ウランとプルトニウムの混合酸化物燃料)を「全炉心の3分の2」まで入れても安全と説明しているが、もともと危険な原子炉を更に危険にする行為だ、と。

再処理工場
六ヶ所村の使用済み核燃料再処理工場は1997年に操業開始予定だった。
いろいろなトラブルが重なり、操業は20回近く延期され、現在まだ試運転中。
まだ本格的操業の目途は立っていない。
しかし使用済み核燃料は既に3000トン運び込まれている。
1つの原発が生み出す使用済み核燃料は1年間に30トン。
本格操業が始ったら1年間に800トンが各地から運び込まれ、ウランとプルトニウムを抽出する作業が行われる筈になっている。

六ヶ所村でも燃料棒の冷却を行っているが、3.11の地震と余震でも外部電源が遮断し、非常用ディーゼル発電機で冷却を行い、その際にも1台の発電機で更に不具合が生じている。

元来、再処理は核兵器用の軍事技術で、日本は敗戦国として原子力の研究を禁じられてきたので、自力で再処理する技術がなく、イギリスとフランスに依頼してきた。

イギリスのウインズケール再処理工場は120万キュリー(広島原爆の400倍)のセシウム137をアイリッシュ海に流している。
ちなみにチェルノブイリ事故で環境に放出したセシウム137は250万キュリー。
六ヶ所村の再処理工場も、事故が起きなくても、平常運転で大量の放射能を放出するだろう、と。

放出予定の放射性物質の一つにトリチウムがあり、1日当たり60テラベクレルになる。
原子力等規制法が許容する濃度に薄めようとすれば毎日100万トンの水が必要になる。
それは不可能なので、再処理工場については濃度規制をせず、そのまま排出を認めている。

予定通り40年間操業して廃炉にするまでに12兆円かかることが公表されている。
1トンあたり4億円。イギリスやフランスに委託すれば2億円。

悪循環
それでも自前でプルトニウムを作り、そのプルトニウムを消費するために原発を利用し、そして原発から出る廃棄物からプルトニウムを作り、・・・。
何故なのだろうか。

これは著者の見解ではなく、政治の混乱と重ね合わせて、読後に考えたことだが、3.11直後の混乱と、脱・原発依存への転換話が出始めてからの混乱とでは違うものがある。
一旦緩急あれば平和利用に用意したプルトニウムを直ちに核兵器に流用するという考え方は昔から続いていて、これを絶やしてはならないという様子が常に鎧の下に見え隠れするようになったと思われる。

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