記憶のスクラップ・アンド・ビルド

当然ながら、その間にタイムラグがあり、
それを無視できなくなることこそ残念です。

ペンローズのねじれた四次元

2018年01月18日 05時39分55秒 | Weblog
ペンローズのねじれた四次元(増補改訂版)
時空はいかにしてうまれたのか 竹内薫 ブルーバックス 2017

光速を超える速度は有り得ないと言うが、宇宙の膨張速度は光速を超え、光が届かない範囲がひろがりつつあるとか。
もう一つ、分からいのはスピン。どうして1/2だったり、1だったりするのか。
特別な数学を学ばなくても理解できるものなのか。
自分で好きなだけ理屈を展開できるものなのか。
そんなことを考えながら拾い読みしました。

ペンローズは、スピンを繋げてツイスターなる数学オブジェを考案し、「ねじれた四次元」における相対性理論と量子力学の統一という挑戦を続けている(p.2)。
統一は、いまだに誰も成功していない。
旧版は1999年に出版されたが、その後に「共形循環宇宙論」を展開している。
共形とは相似のこと。
宇宙はビックバンに始まり膨張して終わるまでを同じ形で繰り返すとのこと。

膨張した宇宙の終わりが、ビックバン以前の宇宙の始まりと同じだとは俄かに納得し難いが、宇宙の物質に重さがないとするなら、大きさの定義は無意味で、膨張して大きくなったと言うことが意味をなさず、始まりと終わりが「同じ」ということが可能になる(p.5)。

量子力学のスピンは、われわれの身近にある物体のスピンの概念と全く異なるらしく、それらしい比喩としていろいろな提案がなされているが、まだ十分に納得できるものに出会ったことがない。
ペンローズは、「初めにスピンありき」と言い、「大きさのない点粒子の回転」が時間と空間を作るとしている。
「スピンが集まった状態を人は時間・空間と認識する」のであって、「時間・空間という容器の中に世界がはいっているのではない」と(p.26)。
スピンをペアにして「ツイスター」が作られる。
表題の「ねじれた」は、このツイスターのこと。

ペンローズは10代で遺伝学者の父と共著でイギリスの心理学誌に論文を投稿し、「ペンローズの三角形(p.23)」を錯視図として発表している。
この捻じれた三角形は有り得ない図形に見えるが、実際に木組みを作り視点を定めれば「閉じた三角形」に見えるという教材を作り、京都のナカニシヤ書店が刊行している。

本誌の旧版やその他の成書を読んだときはペンローズ・タイルなどに興味を持ったが、宇宙や時空について述べている部分については印象に残っていなかった。
最近はブラックホールや宇宙の膨張など、物理の基礎を巡って素朴な疑問を抱くようになり、旧版部分も読み直してみた。
膨張が進んで、現在見えている満天の星たちがどんどん遠ざかり、やがて見えなくなるなら、宇宙は寂しくなり、物理は貧しくなるかと思いきや、基礎的概念から見直さなければならず、むしろ興味深い。

1) スピンは大きさゼロのベクトルの平方根である(p.208)。
2)四次元では、大きさゼロのベクトルは光速を表す(p.214)。
3)2乗すると大きさゼロのベクトルになるような数学的物体をスピノールという。
その意味で、スピノールは光の平方根のようなもの(p.215)。
4)スピノールは複素数なので exp( iθ)という回転因子がかかっている(p.220)。

1回転するとマイナスになって、2回転すると元に戻るのがスピノール。
これと同じ性質を持った幾何学的物体にメビウスの輪がある。短冊の表をプラス、裏をマイナスと考えれば、1回転でマイナス、2回転でプラスに戻り、スピノールを具現化したものになっている(p.222)。

スピノールを沢山集めてネットワークにしたものが「ペンローズのスピン・ネットワーク」。
これが現実の時空構造と酷似していることから、「時空はスピンから作られているのではないか」という推測が生まれた。
この推測を数学的に厳密にしたものが「ツイスター」(p.205)。
ツイスターは光の平方根であるだけでなく、渦巻きのようにねじれている。

素粒子には、電子のようなフェルミオンと呼ばれる種類と、光子のようなボソンと呼ばれる種類があるが、スピノールはフェルミオンを記述するのに使われる(p.254)。
光子はベクトルで記述される。
「超対称性」とは、フェルミオンとボソンを入れ換える変換のもとで理論が不変な性質。

ブラックホールと宇宙の初めとには、すべての物理量が無限の大きさになる「特異点」がある。

ドジッター宇宙という指数関数的に膨張する宇宙モデルでは事象の地平線が存在し、その向こう側にある星は観測できない。
ブラックホールの質量をMとすると、その周囲に2Mの大きさのシュヴァルツシルト半径があり、その内側だと光速でも脱出できない。

宇宙は膨張に膨張を重ね、希薄になり、ブラックホールだけとなり、あらゆる物質がブラックホールの事象の地平線を越えて吸い込まれてしまう。
膨張によって冷えた宇宙の温度が絶対零度に近づくにつれ、ブラックホールも次々と蒸発するようになり、やがて最後のブラックホール群が消滅する(p.262)。

その頃に存在しているのは光子や重力子のような質量のない粒子だろう(p.276)。
宇宙の始まりも光、終わりも光。始まりも終わりもエントロピーは低い。

光速で飛んでいると周囲の時間は止まっている。
周囲の空間の広がりも消えてしまう(p.278)。
光が主役の宇宙においては、形(=角度)は保たれているが、全体の大きさは意味などない。
それがペンローズの共形循環宇宙論(CCC)の「共形」の意味(p.279)。

CCCの各宇宙の持続期間をペンローズはイーオン(aeon)と呼んでいる。
前のイーオンでブラックホールどうしが出会って2つの球が交わるたびに、宇宙マイクロ波背景放射の中に円が生じ、痕跡として判別される可能性があるかも知れない(p.284)。


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