記憶のスクラップ・アンド・ビルド

当然ながら、その間にタイムラグがあり、
それを無視できなくなることこそ残念です。

空間と物質と温度

2013年01月24日 10時54分36秒 | Weblog
温度とは何かを考えると不思議な感じになります。昔のフロジストンという概念があり、今日の物理では不要になったとされていますが、折に触れ漠然とそうしたイメージが残っているような気がしたりします。
質量や電荷を物質あるいは粒子の属性だと言いますが、温度は空間の属性だということでしょうか。

そこに何も存在しない空間が何か属性を持っているとはイメージし難く、そんな場合にその温度とは奇妙です。
しかし宇宙には、と言い直せば、温度が無視できない属性だと誰もが認めているようです。
宇宙の始まりは大変な高温で、すべての粒子が光速で飛び廻っていた、とか。
そして空間は急速に冷え、属性の異なるいろいろな粒子に分かれ、凝集し、天体が形成され、宇宙はさらに膨張し冷却している、と。

超高温で極微の空間で起きたビッグバンがどんな状態なのかは、専門家の解説を鵜呑みにするしかありませんが、とにかく想像を絶します。
そして絶対零度に近いところまで冷却していく空間で何が起きるかも、やはり想像を絶する現象が生じると鵜呑みするしかありません。

どちらの世界も現在われわれが体験している世界とは全く異なるようですが、その鍵は温度にあるらしい。極端に低い温度や、極端に高い温度では、われわれの世界で通用している論理や推論は成り立たない。
そこに何が存在するかという以前に、空間の構造あるいは成り立ちは現在のわれわれの世界の空間とは異なるらしい。
そこに物が有るということすら言えない。
存在するのは空間であって、物質ではない。

CERNの陽子衝突実験でヒッグス粒子らしき存在が確認されたというニュースに関連していろいろな解説を読んだり聞いたりしましたが、特には最近
ウイルチェックの「物質のすべては光」(ハヤカワ文庫)を読んで、そんな風に考えてみました。

ただし、原題は「存在の軽さ」(Frank Wilczek 2008 The Lightness of Being.)であって、軽さを光に掛けていますが、邦題は論旨に沿っていません。著者自身による要旨が
  http://www.lightnessofbeingbook.com/inside_what.html
に有ります。

読み難いところがある難しい本ですが、漠然と誤解していたことを幾つも正してくれましたし、なるほどと思わせることが幾つも有りました。
アインシュタインの有名な式:
  E = m・c2
が静止している物質にしか当てはまらないという指摘などもそうでした。
物質の質量はヒッグス粒子あるいはヒッグス場に由来するとしてのみメディアの解説を受け取ってきましたが、実はヒッグス由来は数%で大部分は量子色力学で説明されることも初めて知りました。

読んでいて一番に驚き興味を持ったのは「エーテルは不滅だ」と言い、その拡張として「グリッド」の概念を説明している点でした。

20世紀の中葉、われわれが高校生だった頃、現代の物理学はエーテルの存在を否定して進歩してきたと教えられました。しかし、その発展に最も寄与したアインシュタインは「一般相対性理論によればエーテルの無い空間は考えられない。そのような空間では光も伝播しない。空間と時間が存在する可能性もない。」と言っていたと指摘しています。

多くの物理学者は「エーテル」の語を使わず、変わって「場」と言っていました。電磁場とか、重力場とか、・・・。
実態はエーテルと言うのと変わりません。
最近、ヒッグス場という語の説明で粒子が密に並んだ空間のイメージが用いられているのを見ましたが、正にエーテルが詰まっているという考え方の復活でした。

数学的には、場は距離が定義される空間というだけのことです。
物質あるいは粒子はいろいろな属性を持ち、それぞれについて場が定義され、同一の空間に層をなして重なっていることになります。
封を切る前の折り紙の束が連想されます。

質量や電荷のことは物理の授業でよく聞きました。しかし粒子のスピンとか色荷は馴染みが薄く、最近ようやく見かけるようになったものです。
スピンには正負が有って、粒子の回転軸に方向があり、従って空間も方向を持っているとすれば、折り紙に裏表があるようなことでしょうか。
半整数の値をとるということはオブラートが何枚も重なっているようなことが連想されます。
しかし強い力を説明する色荷が3つ、その補色が8つあるとして、その複雑な関係が説明されると折り紙の束のイメージでは捉えられません。

エーテルは一種類しか想定されていませんから、ウイルチェックはエーテルに代わって別の語が必要だとして「グリッド」と命名しています。
量子力学的考察を予定して格子状のイメージを用意したのか知れません。

空間が温度を持ち粒子が運動しているとすれば、折り紙の束は非常に複雑な形を作り、何次元のどんな空間で何処が何処に繋がり、何処で行き止まりになるか、見当もつきません。
しかし方程式で色荷の力学を表現すると対称性があるので簡単になるのだ、とウイルチェックは言います。
その部分こそ、われわれ物理や数学の素人には呑み込めません。

われわれの通常の空間概念から想像すれば、最も単純な延長上にあるのは超低温になった真空で、そこは静寂な無の世界です。
しかし物理学者が発見したのは、そこには仮想粒子とその反粒子がペアで泡のように生成・消滅を繰り返し、沸騰する水面の様だ、とか。

そのような世界を理解するために最も大切なのが超対称性だということのようです。
量子力学の時空では粒子の運動は位置が変わるのではなく、スピンが変化する。
超対称性によって方程式が変わらないということは、スピンが違う粒子を同じ粒子と見做してよいということに相当するとウイルチェックは説明します。

スピンが半整数のフェルミ粒子は質量を持っていますが、電子の質量は原子の質量の1%にもなりませんし、原子核の中のクォークも数%の質量しか持っていないそうです。
そして、スピンが整数のボーズ粒子は、光子にしろ、グル―オンにしろ、一般に質量を持っていません。

原子核を構成する陽子や中性子の中にグル―オンによる強い相互作用がクォークを3個ずつ閉じ込めるとき、3つの色荷が相殺して白になるが、厳密には総和がゼロにならない。
その僅かなエネルギーの差がアインシュタインの方程式によって質量になり、それが原子の質量の大部分になっている、と。

陽子や中性子の中でエネルギーが質量に変わるなら、その小さな時空の中はビックホールの中のように超低温なのか、それとも太陽の中のように超高温なのでしょうか。

昔は質量保存則が大原則でしたが、相対性理論や量子力学によって成立しないことが明らかになりましたから、今は質量を物質や粒子の属性だということはできません。
重要な存在はエネルギーであって質量でないことになります。
それでは超低温とか超高温とかの温度は何なのか。

物質と場との相互作用を超対称性理論で統一的に理解しようとすると、重力が他の力よりも弱いことが問題になっているようですが、大事なことは物質の質量が小さいことだというのがウイルチェックの考えでした。
般若心経に倣ってクォークなどのフェルミオンを色と呼び、グルーオンなどのボソンを空と呼ぶなら
  色即是空
のような見方が出来るということになるのでしょうか。
超対称性理論は標準理論の粒子それぞれにパートナーが有るとし、未発見だがスクォークなどのスフェルミオンとか、グルイーノなどのボシーノとかの名前を付けています。
これらの対応を対にして並べれば
  色即是空、空即是色
いう表現になるのかな、と空想されます。



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