記憶のスクラップ・アンド・ビルド

当然ながら、その間にタイムラグがあり、
それを無視できなくなることこそ残念です。

ラクナ梗塞

2007年07月24日 16時45分15秒 | Weblog
 脳のMRIを撮ってもらって初めて知った言葉である。忘れないように「楽な」とこじつけ、家へ帰って医学辞典を調べたら、ラテン語で「小窩」という意味だと。英語の辞書にもlacunaで載っていて「空洞」などとある。ラクナ梗塞の説明はインターネットで検索すると詳しいが、「家庭の医学」などにも既にあり、見過ごしていたのだった。
 脳のMRIがまだ珍しかった頃、定年を間近にした国文科の先生が友人に撮ってもらって、3年前に7個ほどの小さい梗塞が見つかったが、今度は10数個見つかったと悲観されていた。このペースで増えていったら、僕の仕事は今後20年を要するのに、適わないと。
 丁度そのとき新聞の科学欄にMRIの解像度が急速に改善して小さい梗塞が沢山見つかるようになったとあり、受け売りで心配無用を説いたものだった。これが今日ラクナ梗塞と呼んでいるものだったと思われる。
 それから数年して、僕も他の大学に変わり、いつの間にか授業で脳磁図やPETなどを取上げる機会が多くなった。そんな時、研究室の雑談で脳ドックが話題になり、最近受検して沢山の小さい梗塞が見つかったというスタフがあった。それでどうするわけでなく、気持ち悪くなっただけだと。無症状の多発性脳梗塞の半数がラクナ梗塞で、日本人に特に多いとか。
 最近のデジカメは普及機でも画素数が800万以上あり、1ギガを越えるものも少なくない。驚いたことにMRIでは30万程度しかないらしい。
 ラクナ梗塞を検索して得た説明には、互いに少しずつ違う部分がある。まだ十分に熟した概念でないということもあるらしいが、医師たちが使用している機器の性能などにかなり大きな相違があることも影響しているかもしれない。
 共通する記述は、高血圧が続いて脳深部(基底核など)の細い穿通枝動脈が硝子変性をおこして閉塞したもので、直径が20ミリ以下、多発し、無症状が多いこと、くらいである。
 ラクナ梗塞はMRIで発見され異常だとされるが、病気ではないとする人もある。他方で、それは認知症の原因になるとか、脳卒中の前兆としての片側性のしびれ、ふらつき、運動麻痺、巧緻障害をもたらすと説くものもある。後者の場合、MRIの写真では梗塞が脳の片側にしか見られないのが一般的らしい。
 僕の場合は基底核の写真で八の字の脳室の左右に白い点が5・6個ずつ、対称に緩い曲線を描くように並んでいた。脳室の脇が薄い影のようになっていて、血行が不足気味なためだと言う。他には特に異常が無いと。
 3次元の脳を輪切りにして、丁度その一枚にだけ線状に並んだラクナが写るのは不思議である。もしかしたら計算の過程で生じたアーチファクトを疑ってもいいのではないか。
 もう30年くらい前のことであるが、数学、地学、心理学など、いろいろな研究室の人が集まってリーの「不規則信号論」について勉強会をやったことがある。
 太陽の白色光のように周期的成分が殆どない確率的な波がある。そうでなくても、信号成分より雑音成分の多い波があり、これを直接フーリェ変換すれば周期性を持った信号成分が誤差のなかに埋没してしまうが、相関関数を求めてからフーリェ変換すれば、位相の情報こそ失われるが、滑らかな信号成分のスペクトルが得られる、と。
 ちなみに、人間の視覚機構や聴覚機構も同じような情報処理をしていることが知られている。
 勉強会に医学部の助手が時々参加していて、レポート当番のとき、CTもこの原理を応用したものだと説明したことがある。多数の測定器が円周上に並び、曲座標形式で相関関数とそのフーリェ変換を計算しているのだと。諸先生たちは納得しなかった。
 実際に、細かいところで違っていたかも知れないが、基本的には同じ原理によっていると考えてよいだろう。今日ではCTだけでなく、PETやMRIや、その他いろいろな測定法で採用されている技法だと言えるだろう。
 フーリェ変換であれ、改良した類似の計算法を用いているのであれ、計算にはアーチファクトが不可避である。それがどのような形で現れるか、どの程度に現れるか。そういうことを含めた分析結果の解釈を、クライエントに明かす機会はまだないようである。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿