「うどん県」など数々のヒットで有名な、ブランド指導者の殿村美紀先生の文章は、簡潔明快で短時間で読める文章ながら、業界関係者には「ああ、あれか」と分かる奥行きを秘めていて見事だと思います。最近だと先生の9月21日の夕刊フジ記事「世界の「SAKE」ブームに危険な影・・・」は、大変重要な指摘だったと思うので、ここで紹介させてください。
記事で先生はこういう指摘をされています。
(1)日本酒は、海外では(ジャパンの名前がつかずに)SAKEの名称で広まった。
(2)その結果、フランスでSAKE品評会が開かれるようになり、将来は海外の蔵元の方が高い評価受ける時代が来るかも。
(3)メソポタミア発祥のビールはしかし今やドイツブランド。ジョージア発祥のワインも今やフランスが一番というイメージになっている。日本もPRの仕方を考え直ささないといけないのでは。
えーっと、この分野についてあまりご存じ無い方は多分こう思ったはずです。「日本だってビールやウィスキーやワインを作って国際的に高い評価されているし、輸出もしている。だから別にどうでもいい話じゃん?」と。たしかに、日本のビールやウィスキーやワインの製造者が一層発展して国際的に飛躍して欲しいと私も思っていますが、その話は別にして、実は、殿村さんの文章は、業界人なら知っているある重要な「前提」が書かれてないのです。前提を知っている人なら殿村さんの文章を見て顔を青くしたはずです。
その前提とはなにか。日本ではおかず類の消費拡大などが主因となってお米の消費が減っており、日本酒輸出は日本の稲作を守る切り札と期待されていることです。
ここで議論の道を誤らないために記すと、「米消費減退の主因はパン」説が誤りであることは、2017年5月20日のブログ記事「松永和紀先生の「効かない健康食品 危ない自然・天然」をおすすめ!小麦戦略説は嘘だった!」に書きましたので読んでください。
また、「国の統計の「家計調査」を見ると、米よりパンへの家計支出が高いから主食が米からパンに変わった」という都市伝説は、非常に単純な統計の誤読です。これも今年1月3日のブログ「すぐ使える授業ネタ:米消費減の主因はパンではない!」に詳しく書きましたので、そちらも見てください。
悲報ですが、「家計調査」でお米への支出が減った理由の一つは、「お米を炊飯する代わりに、パックご飯や冷凍おにぎり・チャーハンなどを食べると、統計上はお米の消費が減ったとカウントされる」です。日本の米農家を守ろうとして国産米100%パックご飯や冷凍おにぎりを食べるほど、家計調査では「お米の消費が減りました」となるのです(しくしく)。
レンチンご飯や冷凍おにぎり、市販の弁当やおにぎりを食べると政府統計では米消費が減ってしまう理由は、上記の1月3日記事に書きましたが、要するに、家計調査は「家庭炊飯用の精米の購入金額」を調査しているので、家で炊飯器などで米を炊く以外の方法でお米を食べると、同じ量のお米を食べていても、統計ではお米への消費金額が減るのです。だから、家計調査に基づいてお米の消費量をああだこうだと語っても、ね。私は愛国者なので、統計の誤読で日本の産業が衰退する可能性を心配しており、だから、お米の敵はパンじゃ無いんだよ、統計を見誤ってはいけないんですよ、と言っているのです。
じゃあ、肉や油の消費を減らせばいいじゃん、となりそうですが、「現代の和食」ではすきやきやとんかつや天ぷらなど肉や油の消費が高く(昭和の頃は値段が高かったので昭和の和食では肉や油の使用量が少なかったのです。)、インバウンドのお客様の中にも「さしみはどうしても抵抗がある」という方もいるので和食をおすすめしようとすれば、やっぱり肉や油を使用したすき焼きとかラーメンとか照り焼きチキンとか・・・と。
つまり、肉や油の消費抑制は、和食の魅力を海外に発信する際に不利になるのです。これを聞いてびっくりした人は、ついでだからさらにびっくりしてください。もともとアメリカで1980年代に寿司ブームが起こったのは肉料理のおかげなんですよ。
まず、1940~50年代にGHQと、朝鮮戦争による大勢の兵士の日本駐留があり、これでアメリカ人は醤油の味を知り、これを肉料理に使うようになりました。醤油味の肉料理が受けると知って、米国内での日本人や日系人による日本文化フェスティバルでも、基本は武術や芸術(生け花、茶の湯、盆栽など)をメインとしつつも、例えば、シカゴのセント・ジェームズ教会とタッグを組んで日本舞踊講演を開いて焼き鳥を提供したり、中西部仏教会(浄土真宗本願寺派)が夏祭りを開催して、日本舞踊や柔道、空手などを見せながらチキン照り焼きやうどんを提供して好評を博します。これらは地元マスコミでも評判になり、醤油と肉の味の愛称の良さはさらに米国人に広まるようになりました。
そして、1960年第後半から1970年代にこういう意外な「和食」が米国内の日本料理店で人気を博します。それは「天ぷらとテリヤキビーフ、チキンなどの大皿盛り合わせ料理with野菜サラダとライス」。これを現地の日本料理店が提供して流行しました。
そうするとそれまでは米国人は寿司を「黒い紙を食べるなんて!」と怖がり、寿司や刺身を「生魚食べて食中毒にならないの~?」と気味悪がっていたのですが、大皿に天ぷらやテリヤキとともに置く形で、おっかなびっくり食べてもらえるようになりました。そしたら、想像以上に美味しい!そこへもって1970年代末に急に「柔道・カラテ・盆栽・忍者のふるさとで、トヨタやSONYなどが優秀な製品を作ってる。日本という国は誠実で衛生的でかっこいいじゃないか」と、日本文化全体へのリスペクトが生じてテレビドラマ「将軍」が大ヒットし、寿司ブームはその結果、最先端ファッションとして生じたのです。つまり外国の人に和食を知ってもらう入り口として、まず天ぷらと照り焼肉のおいしさというのは、とても間口の広いステップになるのです。
今見た通り、和食は肉や油との相性が非常に良くて、日本人も財布に余裕のある人は江戸時代には高級料理としてシャモ鍋や鴨鍋を食べてました。そして明治時代に牛の肉を食べるという新しい文化を受け入れたのは、牛鍋がシャモ鍋や鴨鍋と同じ調理法なので「容易に米食にマッチしていた」からなんです!!上記は食文化論の篠田統先生が、日本風俗史学会編「食事と食品」に寄せた論文「食品の調理と料理」にて指摘したことです。
ここで熱弁させてください(笑)。もともと和の文化というのは、世界の様々な文化を多様に取り入れて仲良く共存させる、多様性を認める懐の深い文化なのです。なので、和食は肉は食べないとか言う人たちは、江戸時代には庶民が神社で焼き鳥を食べていた地域も多いという歴史も含めて、融和する和の精神をきちんと学んで欲しいものです。
えーと、話を元に戻しますね。国産のお米の消費を拡大したいというところに戻します。で、そのためには、お米の加工品を国内で消費拡大しようという動きが特に1990年代から盛んになっていたのです。でも、餅やせんべいは大ヒットにはなかなかつながらず、お米コスメなどは輸入米で作っても売れてしまうし、日本酒の消費はむしろ右肩下がり。
そのため今世紀に入ってからは一部の酒米農家や酒造関係者が誤解してこう言っていたのです。「日本酒が売れないのは、若者がワインを飲むようになったからだ!」と。なんか、この構図、どこかで見たことありません?そうです。米が売れないのはパンが原因だ説と同じ構図です。でもこういう「どっちかが上がったからもう片方が下がるんだ」というシーソーゲーム的発想に依存するのは、よくありがちな間違った分析です。
10年位前だったかと思いますが、業界関係者も関係する行政マンも統計データを調べてワインが原因ではないことがわかり、ワイン原因説は立ち消えました。なぜワインでは無かったのか?先日の週刊朝日の亀井洋志記者の記事「「若者の酒離れ」、本当の理由とは?」(AERA.dotに9月22日に掲載。)によると、ワインは富裕層が好むアルコール飲料なので若者はあまり手を出さないと。じゃあ、若者はどんなアルコール飲料を飲んでるのか?答えは、「そもそも論としてアルコール飲料を飲まない人が増えている。」という分析結果でした。亀井記者の取材に応じた早稲田大学の橋本健二教授は「非正規で働く若者が増えて低所得のため、酒を飲むだけの余裕がないというのが最大の要因です。」と。同じ記事でJMR生活総合研究所の松田久一社長は「(現代の若者は)常に将来に不安を持っているから消費を控える。」と指摘し、会社仲間でお酒を飲む回数が減ってしまったことも大きいことを指摘しています。
こんなわけですから、ワインをたたいても的外れ。国内でのお酒消費拡大は急には望めない。しかし日本酒文化を絶やしたくはない。そういう中で、COOL JAPAN施策の有力コンテンツの一つとされたのが日本酒輸出だったのです。「世界で日本酒が人気になれば、日本酒を輸出することで国内農業を守れる。」と、醸造メーカーや米農家など大勢の関係者が期待して積極的に活動しており、現時点では順調にいっているのです。
・・・・えー、長い説明で済みませんでしたが、殿村先生の指摘の背後には、このような非常に込み入った事情があったのです。もっと短く書いて欲しいという叱咤激励のお声もあるかもしれませんが、愛国者タミアとしては、日本の文化や日本の食品産業の素晴らしさ、そして和食の意外な歴史や文化・社会的背景について語らずにはいられないので書かせてください。
話を戻して、日本酒が世界で人気な状況になりましたが、しかし殿村先生は、世界の他の国がSAKEの本場にならないようにうまくPRしないといけないと訴えているのです。これは非常に耳が痛い警句ですが、心から憂慮し、殿村先生の指摘通りなにか方策を考えなければならないと思います。ある大変有名な酒造会社が、米国に酒蔵を建てて、米国産の米で安価な日本酒を造って現地販売していますが、安価な日本酒を一般の米国民に気軽に味わってもらうことで、日本酒の知名度アップに貢献してくださっており、自社の日本製高級ブランド酒や他社の日本酒輸出拡大の牽引をしてくれている恩人です。
でも、もしも海外の方々が「SAKEは日本産でなくてもいいよね」と言い出した時が、正念場です。それはほんの数年後に来ることかもしれません。「SAKEの本場は日本だね。」と海外の方に笑顔で言ってもらえるには、高級ブランドから比較的安価なブランドまで手広く準備し、それぞれに適正な価格を設定し、伝統的な商品や、逆にフレンチなどに合うおいしさなど魅力的な新商品など、多様で豊かな商品の提供が必要ですよね。
ところで前出の記事で松田先生は、現在20代にさしかかる次の世代の方々が「おいしい食を求めて、そのついでにお酒を飲む」という消費行動になると指摘しています。橋本教授は「純米吟醸などの高い酒は、やはり非正規労働者には手が届きにくい」としておしゃれで安く飲めるお酒も必要だと訴えています。様々な商品が、多様性がますます重要なのですね。多様な商品の存在、消費者ニーズに合わせた味や価格、様々な努力が必要なようです。
そうした努力の最後に、仕上げとしてどうPRするのか。殿村先生だったらどういう切り口なのか、見てみたいです。その場合、日本酒や日本産の食品輸出に不利になるので、疑似科学である「身土不二」には退場してほしいです。「地元の食品以外を食べると体に悪い」と唱える身土不二が広まれば、逆に外国の方々から「日本人は外国に不健康なものを売っているイケズな民族なんですね?」と批判されてしまうこと確実で非常に不名誉なことです。身土不二を否定するPRを、殿村先生にぜひお願いいたします。
記事で先生はこういう指摘をされています。
(1)日本酒は、海外では(ジャパンの名前がつかずに)SAKEの名称で広まった。
(2)その結果、フランスでSAKE品評会が開かれるようになり、将来は海外の蔵元の方が高い評価受ける時代が来るかも。
(3)メソポタミア発祥のビールはしかし今やドイツブランド。ジョージア発祥のワインも今やフランスが一番というイメージになっている。日本もPRの仕方を考え直ささないといけないのでは。
えーっと、この分野についてあまりご存じ無い方は多分こう思ったはずです。「日本だってビールやウィスキーやワインを作って国際的に高い評価されているし、輸出もしている。だから別にどうでもいい話じゃん?」と。たしかに、日本のビールやウィスキーやワインの製造者が一層発展して国際的に飛躍して欲しいと私も思っていますが、その話は別にして、実は、殿村さんの文章は、業界人なら知っているある重要な「前提」が書かれてないのです。前提を知っている人なら殿村さんの文章を見て顔を青くしたはずです。
その前提とはなにか。日本ではおかず類の消費拡大などが主因となってお米の消費が減っており、日本酒輸出は日本の稲作を守る切り札と期待されていることです。
ここで議論の道を誤らないために記すと、「米消費減退の主因はパン」説が誤りであることは、2017年5月20日のブログ記事「松永和紀先生の「効かない健康食品 危ない自然・天然」をおすすめ!小麦戦略説は嘘だった!」に書きましたので読んでください。
また、「国の統計の「家計調査」を見ると、米よりパンへの家計支出が高いから主食が米からパンに変わった」という都市伝説は、非常に単純な統計の誤読です。これも今年1月3日のブログ「すぐ使える授業ネタ:米消費減の主因はパンではない!」に詳しく書きましたので、そちらも見てください。
悲報ですが、「家計調査」でお米への支出が減った理由の一つは、「お米を炊飯する代わりに、パックご飯や冷凍おにぎり・チャーハンなどを食べると、統計上はお米の消費が減ったとカウントされる」です。日本の米農家を守ろうとして国産米100%パックご飯や冷凍おにぎりを食べるほど、家計調査では「お米の消費が減りました」となるのです(しくしく)。
レンチンご飯や冷凍おにぎり、市販の弁当やおにぎりを食べると政府統計では米消費が減ってしまう理由は、上記の1月3日記事に書きましたが、要するに、家計調査は「家庭炊飯用の精米の購入金額」を調査しているので、家で炊飯器などで米を炊く以外の方法でお米を食べると、同じ量のお米を食べていても、統計ではお米への消費金額が減るのです。だから、家計調査に基づいてお米の消費量をああだこうだと語っても、ね。私は愛国者なので、統計の誤読で日本の産業が衰退する可能性を心配しており、だから、お米の敵はパンじゃ無いんだよ、統計を見誤ってはいけないんですよ、と言っているのです。
じゃあ、肉や油の消費を減らせばいいじゃん、となりそうですが、「現代の和食」ではすきやきやとんかつや天ぷらなど肉や油の消費が高く(昭和の頃は値段が高かったので昭和の和食では肉や油の使用量が少なかったのです。)、インバウンドのお客様の中にも「さしみはどうしても抵抗がある」という方もいるので和食をおすすめしようとすれば、やっぱり肉や油を使用したすき焼きとかラーメンとか照り焼きチキンとか・・・と。
つまり、肉や油の消費抑制は、和食の魅力を海外に発信する際に不利になるのです。これを聞いてびっくりした人は、ついでだからさらにびっくりしてください。もともとアメリカで1980年代に寿司ブームが起こったのは肉料理のおかげなんですよ。
まず、1940~50年代にGHQと、朝鮮戦争による大勢の兵士の日本駐留があり、これでアメリカ人は醤油の味を知り、これを肉料理に使うようになりました。醤油味の肉料理が受けると知って、米国内での日本人や日系人による日本文化フェスティバルでも、基本は武術や芸術(生け花、茶の湯、盆栽など)をメインとしつつも、例えば、シカゴのセント・ジェームズ教会とタッグを組んで日本舞踊講演を開いて焼き鳥を提供したり、中西部仏教会(浄土真宗本願寺派)が夏祭りを開催して、日本舞踊や柔道、空手などを見せながらチキン照り焼きやうどんを提供して好評を博します。これらは地元マスコミでも評判になり、醤油と肉の味の愛称の良さはさらに米国人に広まるようになりました。
そして、1960年第後半から1970年代にこういう意外な「和食」が米国内の日本料理店で人気を博します。それは「天ぷらとテリヤキビーフ、チキンなどの大皿盛り合わせ料理with野菜サラダとライス」。これを現地の日本料理店が提供して流行しました。
そうするとそれまでは米国人は寿司を「黒い紙を食べるなんて!」と怖がり、寿司や刺身を「生魚食べて食中毒にならないの~?」と気味悪がっていたのですが、大皿に天ぷらやテリヤキとともに置く形で、おっかなびっくり食べてもらえるようになりました。そしたら、想像以上に美味しい!そこへもって1970年代末に急に「柔道・カラテ・盆栽・忍者のふるさとで、トヨタやSONYなどが優秀な製品を作ってる。日本という国は誠実で衛生的でかっこいいじゃないか」と、日本文化全体へのリスペクトが生じてテレビドラマ「将軍」が大ヒットし、寿司ブームはその結果、最先端ファッションとして生じたのです。つまり外国の人に和食を知ってもらう入り口として、まず天ぷらと照り焼肉のおいしさというのは、とても間口の広いステップになるのです。
今見た通り、和食は肉や油との相性が非常に良くて、日本人も財布に余裕のある人は江戸時代には高級料理としてシャモ鍋や鴨鍋を食べてました。そして明治時代に牛の肉を食べるという新しい文化を受け入れたのは、牛鍋がシャモ鍋や鴨鍋と同じ調理法なので「容易に米食にマッチしていた」からなんです!!上記は食文化論の篠田統先生が、日本風俗史学会編「食事と食品」に寄せた論文「食品の調理と料理」にて指摘したことです。
ここで熱弁させてください(笑)。もともと和の文化というのは、世界の様々な文化を多様に取り入れて仲良く共存させる、多様性を認める懐の深い文化なのです。なので、和食は肉は食べないとか言う人たちは、江戸時代には庶民が神社で焼き鳥を食べていた地域も多いという歴史も含めて、融和する和の精神をきちんと学んで欲しいものです。
えーと、話を元に戻しますね。国産のお米の消費を拡大したいというところに戻します。で、そのためには、お米の加工品を国内で消費拡大しようという動きが特に1990年代から盛んになっていたのです。でも、餅やせんべいは大ヒットにはなかなかつながらず、お米コスメなどは輸入米で作っても売れてしまうし、日本酒の消費はむしろ右肩下がり。
そのため今世紀に入ってからは一部の酒米農家や酒造関係者が誤解してこう言っていたのです。「日本酒が売れないのは、若者がワインを飲むようになったからだ!」と。なんか、この構図、どこかで見たことありません?そうです。米が売れないのはパンが原因だ説と同じ構図です。でもこういう「どっちかが上がったからもう片方が下がるんだ」というシーソーゲーム的発想に依存するのは、よくありがちな間違った分析です。
10年位前だったかと思いますが、業界関係者も関係する行政マンも統計データを調べてワインが原因ではないことがわかり、ワイン原因説は立ち消えました。なぜワインでは無かったのか?先日の週刊朝日の亀井洋志記者の記事「「若者の酒離れ」、本当の理由とは?」(AERA.dotに9月22日に掲載。)によると、ワインは富裕層が好むアルコール飲料なので若者はあまり手を出さないと。じゃあ、若者はどんなアルコール飲料を飲んでるのか?答えは、「そもそも論としてアルコール飲料を飲まない人が増えている。」という分析結果でした。亀井記者の取材に応じた早稲田大学の橋本健二教授は「非正規で働く若者が増えて低所得のため、酒を飲むだけの余裕がないというのが最大の要因です。」と。同じ記事でJMR生活総合研究所の松田久一社長は「(現代の若者は)常に将来に不安を持っているから消費を控える。」と指摘し、会社仲間でお酒を飲む回数が減ってしまったことも大きいことを指摘しています。
こんなわけですから、ワインをたたいても的外れ。国内でのお酒消費拡大は急には望めない。しかし日本酒文化を絶やしたくはない。そういう中で、COOL JAPAN施策の有力コンテンツの一つとされたのが日本酒輸出だったのです。「世界で日本酒が人気になれば、日本酒を輸出することで国内農業を守れる。」と、醸造メーカーや米農家など大勢の関係者が期待して積極的に活動しており、現時点では順調にいっているのです。
・・・・えー、長い説明で済みませんでしたが、殿村先生の指摘の背後には、このような非常に込み入った事情があったのです。もっと短く書いて欲しいという叱咤激励のお声もあるかもしれませんが、愛国者タミアとしては、日本の文化や日本の食品産業の素晴らしさ、そして和食の意外な歴史や文化・社会的背景について語らずにはいられないので書かせてください。
話を戻して、日本酒が世界で人気な状況になりましたが、しかし殿村先生は、世界の他の国がSAKEの本場にならないようにうまくPRしないといけないと訴えているのです。これは非常に耳が痛い警句ですが、心から憂慮し、殿村先生の指摘通りなにか方策を考えなければならないと思います。ある大変有名な酒造会社が、米国に酒蔵を建てて、米国産の米で安価な日本酒を造って現地販売していますが、安価な日本酒を一般の米国民に気軽に味わってもらうことで、日本酒の知名度アップに貢献してくださっており、自社の日本製高級ブランド酒や他社の日本酒輸出拡大の牽引をしてくれている恩人です。
でも、もしも海外の方々が「SAKEは日本産でなくてもいいよね」と言い出した時が、正念場です。それはほんの数年後に来ることかもしれません。「SAKEの本場は日本だね。」と海外の方に笑顔で言ってもらえるには、高級ブランドから比較的安価なブランドまで手広く準備し、それぞれに適正な価格を設定し、伝統的な商品や、逆にフレンチなどに合うおいしさなど魅力的な新商品など、多様で豊かな商品の提供が必要ですよね。
ところで前出の記事で松田先生は、現在20代にさしかかる次の世代の方々が「おいしい食を求めて、そのついでにお酒を飲む」という消費行動になると指摘しています。橋本教授は「純米吟醸などの高い酒は、やはり非正規労働者には手が届きにくい」としておしゃれで安く飲めるお酒も必要だと訴えています。様々な商品が、多様性がますます重要なのですね。多様な商品の存在、消費者ニーズに合わせた味や価格、様々な努力が必要なようです。
そうした努力の最後に、仕上げとしてどうPRするのか。殿村先生だったらどういう切り口なのか、見てみたいです。その場合、日本酒や日本産の食品輸出に不利になるので、疑似科学である「身土不二」には退場してほしいです。「地元の食品以外を食べると体に悪い」と唱える身土不二が広まれば、逆に外国の方々から「日本人は外国に不健康なものを売っているイケズな民族なんですね?」と批判されてしまうこと確実で非常に不名誉なことです。身土不二を否定するPRを、殿村先生にぜひお願いいたします。