赤蕪もうまいが、茗荷(みようが)もうまい
昨日のBS放送で「三屋清左衛門残日録」が放映とれた。何度みても隠居の心構えを
教えられる。
肴は鱒の焼き魚にははたはたの湯上げ、茸はしめじで、風呂吹き大根との取り合わ
せが絶妙だった。それに小皿に無造作に盛った茗荷の梅酢漬け。
「赤カブもうまいが、この茗荷もうまいな」
と町奉行の佐伯が言った。佐伯の鬢の毛が、いつのまにかかなり白くなっている。町
奉行という職は心労が多いのだろう。
白髪がふえ、酔いに顏を染めている佐伯熊太を見ているうちに、清左衛門は酒がうま
いわけがもうひとつあったことに気づく。気のおけない古い友人と飲む酒ほど、うまい
ものはない。
「今夜の酒はうまい」
清左衛門の隠居の姿わ見て、町奉行の佐伯が言った。おれも早く隠居の身なりたいも
のだ。それに対して、清左衛門は、隠居の身が気楽でよいように見えるが、朝起きて何
もすることがないということがどれほど味気ないか、淋しいことか現役には解るまいて。
役割があり今日もいろいろと苦労な仕事がある方がねどれほど幸せか、隠居はいつでも
できる、可能な限り現役でいることだよ。というと、佐伯はそうかもしれんなとしんみ
りと考え込んだ。