ちょっと後から・・・・つもり
ある夜更け
じいさんとばあさん二人きりの家に
ひょっこり
息子が様子を見に来た。
ばあさんはまだ起きていて
台所の調理用の酒の残りを振る舞った。
-----ところで、と陽気な顏になって
息子は云った。
-----ところで、ここの夫婦は
どっちが先に死ぬつもり・・・・
じいさんは次の間で寝ていて
暗闇の中で眼を開けた。
-----おじいちゃんが先き
ちよっと後から私のつもり・・・・
白い方が多くなった頭をふりながら
次の朝早く息子は帰った。
忙しい仕事がたくさん待っているので。
じいさんはおそい朝めしをたべた。
おいしそうにお茶漬けを二杯たべた。
天野 忠
こんな状況は男はほとんどのじいさんが思っていることかも知れない。
男の方が年上だし、女性の方が長生きするのであるから、順序から言えば
そのように進んでいくことになるのだろう。
この詩のようにじいさんだって世の中の成り行きは解っているのであって、
ばあさんよりも先に死んだ方が楽だわい、などと思い朝めしを二杯もおいし
く食べたのであろうか。
しかし、時には運命というのは解らないやつで、番狂わせを起す時もある。
そういう時に慌てふためいてしまうのが、男の方であろう。