その少年は梅屋敷に住んでいた。
「今日はお前とお前が場所とりな」
学校で仲間と打ち合わせをして遊ぶ約束をする。
小学三年の頃ほとんど毎日野球をしていた。
梅屋敷公園、稗田神社、本蒲田公園前の大きなマンションが建つ前の空き地。
他の学年や他校の子供たちに場所を取られないように先発隊を送り込み夕暮れまで野球をしていた。
全然知らない子供たちと試合なんてものをやったりもした。
ルールなどは本人達は真剣だが実際適当だった。ルールの理解度が違ってよく喧嘩にもなった。
家に帰って父親に聞いてやっぱりとかそうなんだと確認してまた翌日公園で話し合った。ルールに基づいたセオリーについても同様に勉強していった。
その少年はしあわせだった。
そして少年は面白い癖があった。
ピッチャーやるときに投球と同時に「シュッ!」と口で言うのだ。無意識にだ。
分かっていても直せなかった。
相手チームの上級生に「あいつ、口で言ってるぜ。」と馬鹿にされた。
でも楽しかった。野球が面白くてたまらなかったのだ。
アストロ球団やアパッチ野球軍、ドカベン。
ONや阪急の山田。
色んなまんがやプロ野球選手の真似をして楽しんでいた。
大リーグボール1号やハイジャンプ魔球は定番だった。
少年はその頃銭湯に通っていた、『梅の湯』である。
そこに行く途中に『玉や』という質屋があり、ショーケースにならべてある真っ赤なグローブをいつも眺めていた。毎日通るたび、父親に「あれ良いね」と言い続けた。
よく映画やTVで観るガラスに吸い付いて離れない奴である。
いわゆるそれです。
そしてやっとやっと買ってもらったあのグローブ。
いまほど物のあふれていない時代ほんとうにやっと買ってもらった。
そう、その少年はいま少年野球の総監を任されてる。
今思えばなんて楽しかったのだろう。
あしたのためにその14
野球は自分たちで思いっきり楽しめ。
今この仲間と一緒に野球が出来ることをかみ締めて。