(3)林道戸面蔵玉線<市原市戸面→君津市蔵玉>
ここから林道戸面蔵玉線に入るよ。ここにも“房総ふれあいの道”と標示された道標が立ってるよ。
杉木立に風が鳴ってるよ。道は緩やかに上って行く。
土手に穴があいているよ。覗いてみると穴の向こう側は崖だよ。
この林道は梅ヶ瀬渓谷の南側を通る稜線づたいの道なんだね。しかし木々に覆われていて、渓谷を見ることはできないよ。
梢に風の渡る音を心地よく聞きながらペダルをこいで行くよ。車にも出会わないし上り坂は緩やかだし、いいねえ。おや、トンネルがいくつも続いて現れてきたよ。とても雰囲気のいいトンネルだね。このトンネルが現れると、そろそろ林道大福山線への分岐点だ。
この辺は風が来ないよ。ここでお昼だ。淋しいところだ。頭の上で絶えずカラスの唸る声が聞こえているよ。のどの奥で唸るくぐもった声なんだ。なんだか脅されているようだよ。
実はみみ爺、カラスに襲われたことがあるんだよ。10数年も前のことだけど、仕事に行く途中で背の高い松の木が並んでいる道を歩いていたら、いきなり後ろから大きなカラスが飛んできて、みみ爺の頭をかすめてさっと梢に舞い上がって行ったんだ。そのとき首筋にカラスのはばたく風がバサバサ感じられて、心臓が止まるほど驚いたよ。あまりびっくりして動悸がいつまでもやまなかったね。また飛んでくるかと道に落ちていた棒切れを手に持って身構えたんだ。カラスのやつ梢からこちらを睨みつけてるんだよ。みみ爺ちょっと足が震えていたよ。ヒッチコックの映画を思い出していたんだ。でも、しばらく睨み合っていたらだんだん腹が立ってきた。カラスなんかに馬鹿にされたたまるもんかってね。それで手に持っていた棒切れを思わず梢のカラスに向かって放り投げたんだよ。カラスは飛び上って、見えなくなった。それからまだ動悸がおさまらぬまま職場に向かったんだ。
こわい話はこれからだ。次の日だよ。みみ爺が同じ道を通りかかると、すぐ近くの松の木の枝に前の日と同じカラスが止まっていたんだ。目つきで同じやつだとわかったね。立ち止ったみみ爺を睨みつけるように見下ろしていたかと思うと、いきなり急降下してきて正面から頭のすぐ上をはばたいて後ろへ飛び去り、またユ-ターンして超低空で向かってくるんだ。不気味なほど地面すれすれに飛んでくるんだ。まるで機銃照射をしかけてくる戦闘機みたいにさ。その日は雨が降るという予報だったので、ちょうど傘を持っていたから、とっさにその傘をひろげたよ。カラスは広げた傘の上を翼ではたくと勢いよく舞い上がり見えなくなった。みみ爺、まだ雨も降ってないのに傘を差したまま会社へ向かったよ。
その日の帰り、その道は無事に通り過ぎたんだが、表通りに出て歩道橋の上に立った時、不意にはるか遠くのビルの屋上に止まっている鳥の影がに目に入ったんだよ。どきっとして確かめるようにそいつを見ていたんだ。鳥だとはわかるがかなり遠くだったので鳩だかカラスだかよくわからないんだ。それを確かめるようにじっと目を凝らして見ていると、そいつはいきなりビルの屋上から飛び降りるようにダイブして、遠くのほうから低空飛行のまますごいスピードで真っすぐこちらに近づいてくる。あのカラスだ、と思った時にはもう頭の上をかすめて行ったよ。そして、今度は近くのビルの上に舞い上がって止まり、こちらを見下ろしているんだ。駅に着くまで、カラスはビルの屋上を転々と飛び移って、追いかけてきたよ。おお怖いね。
電車に、いく駅か乗って自宅のある駅に降り立ち、まさかここまでカラスも追いかけてこないだろうとは思ったが、カラスの姿を見るたびにやつじゃないかとびくびくしながら家に帰ったよ。
それからも何日かずっとそのカラスに睨まれながら仕事に通ったんだ。こんな怖い日々は後にも先にもなかったね。後で知ったんだがその頃はカラスが子育てをしている時期だったらしいよ。それで、たまたま巣のある松の木の下を通りかかったみみ爺を警戒して襲ってきたようだね。そしてまた、よりによってみみ爺が棒切れなんか投げつけたものだから、頭のいいカラスに覚えられて睨まれたんだね。カラスには気をつけたほうがいいよ。カラスをあなどっちゃいけない。
相変わらず頭の上でカラスが唸っているよ。少し食い物をよこせとでも言ってるのかね。ちょっと怖いけど知らん顔してコーヒーをすすったよ。ごめんよ、あげる物はないよ、みんな食べちゃったよ。
そろそろ出発するかね。次は林道大福山線だよ。
ここから林道戸面蔵玉線に入るよ。ここにも“房総ふれあいの道”と標示された道標が立ってるよ。
杉木立に風が鳴ってるよ。道は緩やかに上って行く。
土手に穴があいているよ。覗いてみると穴の向こう側は崖だよ。
この林道は梅ヶ瀬渓谷の南側を通る稜線づたいの道なんだね。しかし木々に覆われていて、渓谷を見ることはできないよ。
梢に風の渡る音を心地よく聞きながらペダルをこいで行くよ。車にも出会わないし上り坂は緩やかだし、いいねえ。おや、トンネルがいくつも続いて現れてきたよ。とても雰囲気のいいトンネルだね。このトンネルが現れると、そろそろ林道大福山線への分岐点だ。
この辺は風が来ないよ。ここでお昼だ。淋しいところだ。頭の上で絶えずカラスの唸る声が聞こえているよ。のどの奥で唸るくぐもった声なんだ。なんだか脅されているようだよ。
実はみみ爺、カラスに襲われたことがあるんだよ。10数年も前のことだけど、仕事に行く途中で背の高い松の木が並んでいる道を歩いていたら、いきなり後ろから大きなカラスが飛んできて、みみ爺の頭をかすめてさっと梢に舞い上がって行ったんだ。そのとき首筋にカラスのはばたく風がバサバサ感じられて、心臓が止まるほど驚いたよ。あまりびっくりして動悸がいつまでもやまなかったね。また飛んでくるかと道に落ちていた棒切れを手に持って身構えたんだ。カラスのやつ梢からこちらを睨みつけてるんだよ。みみ爺ちょっと足が震えていたよ。ヒッチコックの映画を思い出していたんだ。でも、しばらく睨み合っていたらだんだん腹が立ってきた。カラスなんかに馬鹿にされたたまるもんかってね。それで手に持っていた棒切れを思わず梢のカラスに向かって放り投げたんだよ。カラスは飛び上って、見えなくなった。それからまだ動悸がおさまらぬまま職場に向かったんだ。
こわい話はこれからだ。次の日だよ。みみ爺が同じ道を通りかかると、すぐ近くの松の木の枝に前の日と同じカラスが止まっていたんだ。目つきで同じやつだとわかったね。立ち止ったみみ爺を睨みつけるように見下ろしていたかと思うと、いきなり急降下してきて正面から頭のすぐ上をはばたいて後ろへ飛び去り、またユ-ターンして超低空で向かってくるんだ。不気味なほど地面すれすれに飛んでくるんだ。まるで機銃照射をしかけてくる戦闘機みたいにさ。その日は雨が降るという予報だったので、ちょうど傘を持っていたから、とっさにその傘をひろげたよ。カラスは広げた傘の上を翼ではたくと勢いよく舞い上がり見えなくなった。みみ爺、まだ雨も降ってないのに傘を差したまま会社へ向かったよ。
その日の帰り、その道は無事に通り過ぎたんだが、表通りに出て歩道橋の上に立った時、不意にはるか遠くのビルの屋上に止まっている鳥の影がに目に入ったんだよ。どきっとして確かめるようにそいつを見ていたんだ。鳥だとはわかるがかなり遠くだったので鳩だかカラスだかよくわからないんだ。それを確かめるようにじっと目を凝らして見ていると、そいつはいきなりビルの屋上から飛び降りるようにダイブして、遠くのほうから低空飛行のまますごいスピードで真っすぐこちらに近づいてくる。あのカラスだ、と思った時にはもう頭の上をかすめて行ったよ。そして、今度は近くのビルの上に舞い上がって止まり、こちらを見下ろしているんだ。駅に着くまで、カラスはビルの屋上を転々と飛び移って、追いかけてきたよ。おお怖いね。
電車に、いく駅か乗って自宅のある駅に降り立ち、まさかここまでカラスも追いかけてこないだろうとは思ったが、カラスの姿を見るたびにやつじゃないかとびくびくしながら家に帰ったよ。
それからも何日かずっとそのカラスに睨まれながら仕事に通ったんだ。こんな怖い日々は後にも先にもなかったね。後で知ったんだがその頃はカラスが子育てをしている時期だったらしいよ。それで、たまたま巣のある松の木の下を通りかかったみみ爺を警戒して襲ってきたようだね。そしてまた、よりによってみみ爺が棒切れなんか投げつけたものだから、頭のいいカラスに覚えられて睨まれたんだね。カラスには気をつけたほうがいいよ。カラスをあなどっちゃいけない。
相変わらず頭の上でカラスが唸っているよ。少し食い物をよこせとでも言ってるのかね。ちょっと怖いけど知らん顔してコーヒーをすすったよ。ごめんよ、あげる物はないよ、みんな食べちゃったよ。
そろそろ出発するかね。次は林道大福山線だよ。