あくびの稽古
【主な登場人物】
稽古事の好きな男 その友達 あくび指南の先生
【事の成り行き】
趣味と言えるほどの趣味は多くありませんけど、趣味と言えない趣味は数
多く持ってます。
って日本語ちょっとおかしい。
小さい頃から興味の湧くものにはすぐ手を出す性質でしたから、ちょっとかじっては放ったらかし。
忘れた頃にまた手を出すの繰り返しです。
その内、月謝を払ってお稽古したのは「習字」だけで、あとは全て独り自己流で学んできました。
お習字も通ったのは正味半年の間だけにもかかわらず、一応「崩し字」の読み書きはできます。
崩し字字典なんていうものがありましたんで、高校生の時分にシコシコ練習した賜です。
目的は、何に何を書くとき下手な字より上手な方が良かろう、という不純なもんでしたが……
現在ではパソコンも立派なお稽古事の一つだそうでして、ご近所にもパソコン教室が雨後の筍状態で看板を上げておられます。
そして私の一番長く続く趣味がこの「パソコン」ということになりました。
もし今、このパソコンを一から習うとなったら、多分途中で投げ出していたことでしょう。
パソコンの黎明期と時を同じく独学し始めた幸運が、途中たびたび一服期間をはさんでなお、何とか今について行ける体力を保たせてくれています。
それにしてもインターネットというのはよろしいですね。
この環境があれば、趣味を少しかじるぐらいの芸は朝ご飯を食べて、昼ご飯を食べて、晩飯前ぐらいでしょう。
一日あれば、付け焼刃の知識が得られるほど情報が満載ですもん。
これを活用すれば「稽古屋」に通う手間なんか無いはず……、ですけれども、自分から進んで取り込もうという人は少ないようです。
安易に受身に「稽古屋」で教えてもらおう。
そらその方が簡単には違いない……(2002/05/05)
* * * * *
●おい、えぇとこで会ぉた、ちょっと付き合ぉてぇな
■何やねん?
●稽古に行くねん、ちょっと付き合ぉて
■稽古の付き合いか、堪忍してもらうわ
●何でやねん?
■何でて、お前の稽古の付き合いずいぶんとしたで
●してくれたか?
■「してくれたか」て、したやないか。一番初めは何やった……、そぉ三味線や、わい懲りてんねん、お前の稽古の付き合いわ。
■「三味線の稽古すんねん付き合ぉて」言ぅたがな
●言ぅた言ぅた
■言ぅたやろ。
まぁ、稽古っちゅうもんはせんよりする方がえぇやろ思うさかい、うかうかっと付いて行てやったがな。
お前あの時、稽古してたん何やったなぁ?
●「春雨」や。♪チントンシャン、はるぅ~さぁ~めぇ~に♪ なかなか洒落た端唄やで。
■そぉや、洒落た端唄や。そののっけの「チントンシャン」ちゅうのがなかなか弾かれへんねんで、お前わ。
ぶっさいくなやっちゃで。
お師匠(おっしょ)はんが「チントンシャン」ちゅうやつをお前「ジャンジャンジャン」や「チントンシャン」ちゅうのに「ジャンジャンジャン」何べんやっても「ジャンジャンジャン」や。
■何やおかしぃなぁ思てふっと見たら三本の糸いっぺんに「ジャンジャン、ジャンジャン」無茶したらどんならんで。
お師匠はんが「何しなはんねん、一本ずつにしなはらんか」言ぅたら「いやいやお師匠はん、わたい三本ぐらいいっぺんに弾(はじ)かな頼よんのおます……」力尽くで三味線弾ぃてどぉすんねん。
●そぉそぉ、そんなことあったねぇ
■「あったねぇ」や、ないわい
●あら、じき止めたんや
■止めた方がえぇわい。
あんなもん何年やったかて上手になるかい。
それで次会ぉた時に「わい踊りの稽古してんねん付き合いして」や「またかいな」言ぅたけども、またうかうかっと付いて行てやった
●行てくれた。
■稽古してたんが「奴さん」や。♪チレンチンチリ、ゴンチチ、トッチチ、チンチン、ツン、ハァシタコラ♪ とね。
のっけは、こんな恰好(かっこ)しながらグルグルっと回って歩くだけのとこやで。
お前不思議な男やねぇ、歩くっちゅうことがでけへんねねぇ。
普通の人間は右手が出たら左足が出る、右足が出たら左手が出ると、互い違いになるもんや、だいたいわ。
■不思議な男やで、右手出したら右の足がおんなじよぉに付いて出る、左手が出たら左足が出る。
お師匠はんが「何をしてなはんねん、ナンバになってまんがな。ナンバだんがな」言ぃはったら、お前の言ぅことおかしぃで「お師匠はん、何言ぅてなはんねん。わたい難波より心斎橋の方が近こおまんがな」誰が電車の停留所聞ぃてんねん。
●そんなことあったねぇ
■「あったねぇ」やないわい
●あら、じき止めたんや
■止めた方がえぇわい、何十年やったかて上手になるかい。その次に行たんが……、浄瑠璃や「浄瑠璃の稽古してんねん付き合いして」「わいもぉ二へん懲りてるよってに堪忍してぇな」言ぅたら「いやいや、浄瑠璃だけはお師匠はんも見込みある言ぅてはんねん」言ぅから行てやったがな。
■稽古してたんが「太十(たいじゅ~)」太功記の十段目や。♪夕顔棚のこなたより、現われ出でたる武智光秀ぇ♪ お師匠はん、えらい声出しはったがな。
けどまぁ、お師匠はんはお師匠はんやから上手やけど「やってみなはれ」言ぅて、お前、赤い顔して頭のてっぺんから声出して何言ぅたんや「ゆゆゆゆ、ユユユユ、夕焼け小焼けで日が暮れてぇ……」
■無茶言ぅたらどんならんで、どこぞの世界に「夕焼け小焼けで日が暮れて」てな浄瑠璃があるか?
お師匠はん思わずブ~ッと吹き出しはったがな。
余りのことにあきれ果てて「ちょっとおしっこ行って来ます」ちゅうてお便所行きはったわ。
お前、そんなことちょっとも堪(こた)えてないわ「現われ出でたる武智光へでぇ~」武智光ヘデてな人があるか?
■それがまた、えらい声や。お前の横手で猫が丸ぅなって昼寝してたんや、火鉢の横手で。お前のあの声でビャ~ッと一間ほど飛び上がって下へ落ちて「ギャン」ちゅうて動かんよぉになったんやで。猫てなもん大抵は少々のとこから落ちても、うまいことこぉなるもんやで。不意突かれたんやなぁ……、わしゃ、あれからあの猫の顔見んねで。
■お前、そんなことちょっとも堪えてへんわ「オガオガ、オガオガ、オガオガ、オガオガ」わけの分からんことやり始めたがな。お稽古のために三、四人連中さん待ったはったんや。ところが、お前の顔見て「とてもやないが、こっち順番回って来(こ)んわい」てなもんや「また、あしたにでもしょ~か」ちゅうて一人帰り、二人帰り、皆帰ってしまいはった。
■そんなことお前ちょっともかもてへん、目ぇつぶって「オガオガ、オガオガ、オガオガ、オガオガ」言ぅてるさかい、目ぇ見えてへんがな。
隣の嫁はん入って来はってんで「えろぉお悪いよぉでしたら、お医者さん呼びましょか?」稽古屋の隣の嫁はんやで、大抵ひどい浄瑠璃も聞ぃたはるはずやで、その耳の肥えた嫁はんが聞ぃても浄瑠璃とは思えなんだんやで。よほどの浄瑠璃やで、前の浄瑠璃わ。
■まさか「浄瑠璃の稽古してまんねん」とも言えず「どぉやら治まりそぉです」言ぅたら、向こぉもお前の顔見て「こら、ちょっと違ごたかいな」てなもんで「どぉぞお大事に」言ぅてとりあえず帰りはった。それでもお前「オガオガ、オガオガ、オガオガ、オガオガ」言ぅてたら、今度巡査が入って来たで。
■「時節柄、悪い病気が流行っておるが、何ならいっぺん交番所へ届けてもらわんけりゃ……」お前、チビスかコレラみたいに思われてんねんで。
まさか巡査に嘘つくこともできず「いえ、こら浄瑠璃の稽古してまんねん」言ぅたら、あの巡査が拍子の悪い、浄瑠璃知らなんだんやねぇ「浄瑠璃とはいかなるものか?」言ぃはったで。
■「いかなるものか?」言ぃはっても、ひと言でこぉいぅもんやと言ぅこともできず「まぁ、こぉして赤い顔してオガオガ、オガオガ言ぅもんです」言わなしゃ~ないがな。したら巡査がお前の顔ジ~ッと見て「そぉか、世の中は広いなぁ」言ぅて「明るいうちはえぇけれども、暗闇になったらこぉいぅ音を外へ流さんよぉに。人心をば不安に陥れんよぉに、間違いのないよぉに」言ぅて帰りはったんや。
■それでもお前、堪えてへん「オガオガ、オガオガ、オガ」言ぅてたら、やっとお師匠はんお便所から出て来はったんや。だいぶの時間あったで。
お師匠はんも恐らく、お便所の中で待ったはったんやろねぇ、お前が諦めて帰るのんを。
■もぉボチボチ帰ったやろ思て出て来たら、お前まだ「オガオガ、オガオガ、オガ」言ぅてるさかい、お師匠はん、しばらくお前の顔ジ~ッと見てはって「あぁ~、ご精が出ますなぁ~」しみじみ言わはったで。自分がウソでも稽古してるお師匠はんに「ご精が出ますな」てなこと言われなや。
●そんなこと、ありましたねぇ
■「ありましたねぇ」やないわい
●あら、すぐ止めた
■止めた方がえぇわい、何百年やっても上手になるかい。あれからしばらく会わなんだんや。助かってたんや。それから半年ほどしてバタ~っと会ぉたんや「わい今度、柔術の稽古してんねん付き合いして」
■あれ聞ぃたときドキッとしたで。当り前やないか「三味線とか浄瑠璃、踊り。こら間違ごぉてもどぉっちゅうことないけれども、柔道てなもん一つ間違ごぉたら命に関わるで。危ないこと止めときや」言ぅてるのに「いやいや、もぉだいぶ稽古上がったぁるねん」いぅて言ぃながら日本橋かかったんや。
■ひょっと向こぉ見て「よし、わしゃこれから、向こぉから来る男投げ飛ばす」「アホなことしぃな」言ぅてるのに、ダァ~ッと走って行って「やぁ~」ちゅうた。わしゃえらいなぁ思たで、あの「やごえ」ちゅうのか、あの声稽古せな、なかなか出んもんやで。
■「いやぁ~ッ」ちゅうたんや。で「ドッボ~ン」ちゅうたんや。
えらいもんやなぁ、やりよんなぁ思てひょ~っと橋の上見たら、ズボ~ッと立ったはるのんその人やで。向こぉから歩いて来はった人や。下で「助けてくれ~」言ぅてるのんお前の声やで。
その人には百ぺらぺん謝って「これ昨日、病院から出たとこだんねん」言ぅて。
■お前助けんならんわ、謝らんならんわ、えらい目におぉてんで
●ハ、ハ、ハ~~ッ……、そんなこと、あったねぇ
■「あったねぇ」やないわい、ホンマにもぉ、笑いごっちゃないわい
●まぁそんなこと言わんと付き合いしてぇな。もぉいっぺんだけ付き合あいして。
これでわい、もぉ稽古やめよと思うねん。
■今度、何の稽古行くねん?
●あくび、あくびのね、稽古
■えっ?
●あくびの稽古にね
■何?
●あくびの稽古……
■あくびの稽古……? あくびて何かい、あの退屈なときに「あぁ、あぁ~」と出る、あの欠伸かい?
●せや
■アホかお前、そんなもん稽古せんかて退屈なったら「あ、あ、あ~ッ」と出るやないかい。
●出るけどね、看板出したんや、うちの横町(よこまち)に「御欠伸稽古処」うどっかオモロい、粋な洒落たとこがあるに違いないと思うで。
先お稽古してもろて、次から来るやつ代稽古てなことしたいと思てるねん。
ちょっと付き合いして。
■アホか、誰がお前のほかにそんなもんの稽古に行くかい
●そんなこと言わんと付き合いしてぇな
■嫌や!
●怒りないな、付き合いしてぇな
■情けない、おら向こぉの辻曲がりかけてたんや。何の気無しにこっちひょいと曲がったら、お前とベタッと会ぉたんや。
災難はどこにあるや分からんわ、ホンマにもぉ。
■お前のふた親はえぇことしたわい、早いこと死んで。
こんなアホらしぃ稽古の付き合いさされんだけでも幸せや
●ボロクソに言ぃないな。
これだけでもぉ稽古のしぃじまいにしょ~思てんねん、付き合いしてんか。
この辻曲がったとこや……、見てみぃ出しよった看板「御欠伸指南処」
■ホンに、揚げよったなぁ。
こら桧の看板、立派なもんや。
なるほど世の中広いわい。
ほな稽古してもらい、わい帰るわ
●待った、待ったぁ、待ちぃな。
ここまで付いて来てもらうだけなら、何も頼んで付いて来てもらえへんやないか。
こっから中へ入んのが初めてやさかい、恥ずかしぃさかい言ぅてんねやないか。入ってぇな。
■分かった、入らんかい
●えぇ~こんちわ、こんちわ
▲はい
●あのぉ~先生(せんせ)は?
▲はい、わたくしが。あなた方は?
●わたいら、この町内のもんでんねん
▲これわこれわ、ご町内のお若い衆で。
失礼(ひつれぇ)しましたなぁ。
何じゃかじゃと手間取りましてな、明日にでも名札を持ってご挨拶にと思ぉておりましたが、先を越されまして恐れ入ります。
今日は何のご用で?
●えぇ、何でんねん、お稽古してもらいたい思いまして。
表、看板出てまんねん。あくびのお稽古を……
▲おぉ、あなたがあくびのお稽古を……、お若いに似ぬご奇特な。どぉぞこちらへお上がりを……。あのお連れのお方は?
●先生、あの男お稽古したい言ぅてまんねんけど、仕事のことで十日ほど旅に出まんので、帰りましたらまたお稽古を
▲さよぉか、それにしても上がってもらやぁよろしぃのに……、どぉぞご随意に。ささ、あなたこちらへ
●どぉぞよろしゅお頼の申しま。
先生、ちょっとお伺いしまっけど、あくびっちゅうたら、あの退屈なったら「あぁ、あ、あ~」と出る、あのあくびですか?
▲はいはい、あれには違いございませんが、あれは手前どもでは「駄あくび」と申しましてな、面白味も何もないもので、やはり、あくびといぅものはお稽古を積みませんとな
●はぁ、そんなもんですか。あくびと一口に言いましても色々?
▲はい、一口にあくびと申しましても春夏秋冬、四季それぞれのあくび、魚釣りのあくび、説法のあくび、お通夜のあくびと色々とありますでな
●ほぉ、いろんなあくびが……、先生、わたし初めてでございますので、なるべく易しぃのを……
▲はい、それではそぉですなぁ……、もらい風呂のあくびなどはどぉですかな
●もらい風呂のあくびちゅうとどんなんです?
▲はい、これは何ですなぁ、知った先や、またご近所でもらい湯をすることがある。
銭湯へ行きますと払うものが払ろぉてあるによって「ぬるい、また熱い」の小言が言えますが、もらい湯の場合はそれが言えませんなぁ。なるたけ辛抱をしなければならん。
▲大抵はそのうちの家人の入った後でぬるい湯が多い。これに小言も言わず、しばらく辛抱して入っておりますと、芯から、底から、ホコホコと温もってまいりましてな。
これに退屈といぅものがない交ぜになって、窓越しに秋の月などを見ながら……
▲「はぁ~~~っ、あ~~~~」これがもらい湯のあくびじゃ……
●先生、あんまり面白いことおませんなぁ。もぉちょっと色気のあるあくびは?
▲色気のあるあくびはございませんが、でわ将棋のあくびといぅのは?
●先生、わたい将棋好きでんねん、それを……
▲はい、それではな、もそっとこれへ、もそっとこちらへ……
▲えぇ~、相手が前に居る、間に盤がある。こぉいぅ心持でな。
よろしぃかな、良くご覧を……、相手が考えに考えていかない、こちらがいくことは勿論できない。
そこの様子をこの扇子をキセルの心で、よろしぃかな良くご覧を。
盤と相手を七分三分に眺めるところから始まりますぞ……
▲長い思案じゃなぁ……、下手な考え休むに似たり、こらもぉどぉ考えても詰んだぁる……。
まだかぁ、将棋もえぇが、こぉ長いこと待たされたら……、退屈で、退屈で……「はぁ~~~っ、あ~~~」たまらんわい……
●えらいことやりまんねんなぁ先生。わて、帰(かい)らしてもらいま
▲いや、帰られては……、どぉぞお稽古を
●そぉですかい、ほなやらしてもらいま。
相手が前に居まんねんな、間に盤がおまんねんな。
のっけは「長い思案じゃな」ですかい、分かりました。
●長い思案じゃなぁっ!
▲いさかい事ではございませんで、もそっとな、柔らかく
●長い思案じゃなぁ、え、下手な考え休むに似たり。こらもぉどぉ考えても詰んだぁるのじゃ! 七分三分七分三分……、まだかぁ~、将棋もえぇけど、こぉ長いこと待たされたら退屈で退屈で「ファ~イ!」たまらんわい!
▲何じゃそら。
お前さんは人に聞かせよぉといぅ気がある。これがいけませんぞ。
芸事にこれが一番いかん「いちびろぉ」といぅ気がありますぞ。
人が聞ぃてよぉが聞ぃいてよまいが、天地間に我れ独りといぅ、無心、無我の境でやる。
これが一番大事なことでな、今一度やってみますで……
* * * * *
■よぉあんなアホなことやっとんなぁ。
えぇ年した男が、真面目な顔して。
教えよっちゅうやつも教えよっちゅうやっちゃけど、教わろっちゅうやつも教わろっちゅうやっちゃで……。
こんなもんの稽古に、ほかに誰が来るかい。
えらいやつと友達になってしもた……。
どんならんなぁ、ホンマにもぉ。
また今日仕事に行かれへんがな……
■あぁ~あ、長い稽古やなぁ……。下手な稽古は休むに似たり、こらどぉ考
えても止めないかんで……。まだかぁ……、稽古もえぇが、こぉ長いこと待
たされたら……、退屈で退屈で……
■「ふぁ~~~っ、あぁ~~~~」たまらんわい。
【さげ】
▲おぉ~、お連れさんはご器用じゃ!
【プロパティ】
端唄=地歌の曲種のひとつ。上方のはやり歌(端歌)や芝居歌などの様式を
摂取した歌物。曲風は多様。十八世紀中に多数作曲され、現行の地歌
や曲目の大半を占めている。上方端歌。
ナンバ=[舞踊用語]日本舞踊では右手を前へ出した時には左足を、右足を
出せば必ずその方へ左手を出すときまっている。それを右手と右足、
左手と左足を同時に出すのをナンバという。
電車の停留所=大阪市電は1908(明治41)年、四ツ橋を中心として四ツ橋筋
を南北線(大阪駅~四天王寺)、長堀通を東西線(築港~上本町2丁目)
が開通。心斎橋駅は東西線、難波駅は南北線。ちなみに地下鉄御堂筋
線が開通するのは梅田~心斎橋が1933(昭和8)年、心斎橋~天王寺が
1942(昭和17)年。御堂筋が開通したのは1937(昭和12)年だから、ほぼ
同時期に工事をしていたことになる。当時の雰囲気を感じたいなら、
地下鉄心斎橋駅のホームに立つとよい、ホーム真ん中にある柱を取り
除いたところを想像していただくと、その他はほとんど当時のままの
意匠が残る。
チビス・コレラ大流行=1885(明治18)年、腸チフス、コレラ大流行。大正
時代では1912(大正1)年から1916(大正5)年にかけてコレラ大流行、
1914(大正3)年、東京で発疹チフス発生各地に大流行。
しゃ~ない=仕様が無い→しょうがない→しゃ~ない。
柔道=1882(明治15)年、嘉納治五郎が創始した講道館柔道。それ以前は各
流派柔術。
やごえ=「や」という掛け声。
いちびる=調子に乗ってはしゃぐ。ふざける。「市振る」市振りの嬌態か
ら来たもの。市振り:せり市で手を振って値の決定を取り仕切る。
どんならん=どうにもならない。どうしようもない。
音源:1982/08/22 枝雀寄席(ABC)