「環境性能はもちろん、運転する楽しさや使う楽しさをあわせ持った燃料電池車(FCV)だ」
28日の東京モーターショーの報道公開。ホンダの八郷隆弘社長は、ブランドカラーの赤に染まった「クラリティ フューエルセル」を前にこう自信を見せた。
水素を燃料とし、排ガスを一切出さないFCVは「究極のエコカー」と呼ばれる。世界初の量販FCVの称号はトヨタ自動車が昨年発売した「ミライ」に奪われたが、ホンダは5人乗りの広い室内や走行距離の長さで、従来のガソリン車同様の使い勝手の良さをアピールした。
トヨタも高級車ブランド「レクサス」から将来の旗艦モデルをイメージしたFCVのコンセプトカー「レクサスLF-FC」を出展した。FCVは燃料を補給する水素ステーションの不足や生産台数の少なさなど課題はあるが、両社とも普及へアクセルを踏む。
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一方、日産自動車のカルロス・ゴーン社長は「電気自動車(EV)技術が商品開発の中心だ」と力を込めた。EVは300キロに満たない航続距離などがネックとなり、普及が遅れている。日産は今回、従来の2倍以上のバッテリー容量を持つEVのコンセプトモデルを発表。平成32年以降の投入を視野に入れる。
世界の自動車市場の大半は通常のガソリン車やディーゼル車が占め、ハイブリッド車(HV)でさえわずか数%にすぎない。だが、先進国を中心に燃費規制や排ガス規制はさらに強化が進む見通しだ。各社は二酸化炭素を排出しないFCVやEV、HVなど、環境負荷低減につながるクルマの“電動化”を急いでいる。
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台風の目となりそうなのが、ディーゼル車の排ガス不正問題に揺れる独フォルクスワーゲン(VW)だ。来日したヘルベルト・ディース取締役は「車の電動化を強化していく」と述べ、航続距離500キロのEV技術の開発や、充電可能なプラグインハイブリッド車(PHV)を主力モデルで投入することを表明した。
欧州メーカーは、二酸化炭素の排出量が少ないディーゼル車をエコカーの中心に据え、将来的にPHVやEVに移行する戦略を描いていた。だが、VWの不正の発覚や規制強化で「ディーゼル車の需要は減っていく」(日産のゴーン氏)との見方が強く、各社は電動化にかじを切る。
日本メーカーはこれまで電動化で先行してきた。だが、新型のHV「プリウス」を公開したトヨタの豊田章男社長は「チャレンジしなければ長い目でみれば衰退する」と危機感を募らせる。技術革新や量産による低価格化など、電動化市場を制する競争力がクルマの未来を左右する。
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44回目を迎えた東京モーターショー。各社が力を入れる環境対応車や自動運転技術の現状と将来を探る。