右下から時計回りに、なつぴなつ（東大卒）、あろえあろ（京大卒）、
あずきあず（名大卒）、りりりかり（九大卒）
高学歴を売りにしたアイドルグループが話題を集めている。その名も「学歴の暴力」。メンバー全員が旧帝大の出身で、楽曲の歌詞やライブ中のパフォーマンスにも「学歴ネタ」が満載だ。これまでにないアイドル像を持つ彼女らの魅力は一体何なのか。
9月下旬、東京・高円寺のライブハウス「新高円寺LOFT X」のステージには、学歴の暴力の姿があった。
メンバーは、なつぴなつ（東京大学卒）、あろえあろ（京都大学卒）、あずきあず（名古屋大学卒）、りりりかり（九州大学卒）の4人。平日は社会人として働き、アイドルは週末だけ。芸能事務所に所属せず、衣装作りや楽曲の制作、PRなどは全て自力だという。
最初に披露した曲は「形なき暴力」。ファンは曲に合わせてペンライトを振ったり、声援を送ったり。ここまでは一般的なアイドルのライブとなんら変わらない。
異変を感じたのは後半戦。「令和大学合戦」を歌い始めると、ファンらが合いの手を入れる。「北大! とんぺー! 東大! 名大! 京大! 阪大! 九大!」。「とんぺー」は東北大学の愛称で、つまり叫ばれているのは旧帝大7校の名前だ。まさかアイドルの現場で、大学名を聞くことになろうとは。
平日は会社員、週末だけのアイドルだ（新高円寺ロフトXでのライブ）
「では皆さん、準備お願いします」。メンバーが呼びかけると、ファンらが持参したバッグからガサゴソと何かを取り出し始める。「それでは聞いてください、『学歴の暴力』」。グループ名と同名の曲が始まると、会場の熱気は最高潮に。
「学歴の暴力くらえ」という歌詞に合わせてメンバーがビームを出すしぐさをすると、「低学歴」と書かれたTシャツを着たファンが一斉に倒れ始めた。しかし一部のファンは倒れずに生き残っている。生き残ったファンが掲げているのはなんと……大学の卒業を証明する学位記。それを盾にして「学歴ビーム」を防いでいるようだ。
このパフォーマンスはなつぴなつさんがソロでライブに出た際に「今から学歴ビームを出すので、当たった低学歴の人は倒れてくださいね」と説明したことで生まれた。そのうち普段のライブでも定番化。ある時、1人のファンが学位記を持参してビームを跳ね返すと、この動きがファンの間で広がった。ファンによると、学位記がない場合は「板状のものなどでも防げる」という。
会場にいたニッキーさん（36）は東北大卒。「今回初めてビームに立ち向かいました」と笑う。昨秋から学歴の暴力のライブに通っていたが手元に学位記がなく、少し前に実家に帰って持ってきたという。「知的なエピソードや高学歴ゆえの苦悩、コンプレックスに共感する部分もあります」
学歴の暴力の結成は2021年。京大卒の元メンバー、えもりえもさんがSNS上でなつぴなつさんに声をかけたのがきっかけだ。2人の学歴という強みを生かすコンセプトにし、「学歴フィルターあり」と明記して旧帝大卒の女性に限定してメンバーを集めた。
「5教科7科目しっかり勉強した努力家が抽出できる」となつぴなつさん。「あとは、各地のトップ校から1人ずつメンバーを集めて、最終的に7人の完全体を目指す様がドラゴンボールみたいでアツいなって」
メンバーが作詞する歌詞にも「学歴ネタ」が生かされている。例えば、「学歴の暴力」は要約すると「学歴マウントをとるものの、好きな人はかわいい『私文（私立文系）女子』に夢中」という少し切ないストーリー。「形なき暴力」では「最後人間性と言うけどすがるべきそれ 学歴だ」と主張する。他の楽曲でも「フーリエ展開できないくせして邪魔をするな」などの歌詞が特徴的だ。
お客さんを「低学歴のみんな〜」とあおることもあれば、プレゼンを展開したことも。そのコンセプトゆえにぶつけられる批判もあった。「自慢しているのかとか、学歴がよくても頭は悪そうとか。心ない声に負けずに活動していくのは苦労した」となつぴなつさん。
少しずつ知名度が高まり、ファンも増えてきた。あずきあずさんは「従来のアイドルとは違う企画が打てる。可能性をたくさん試したい」と目を輝かせる。なつぴなつさんは「私は学歴が高いだけで何もない人間ですが、だからこそ伝えられることがあると思う。1人でも誰かの気持ちを前向きにできたら」と話す。目標は、日本武道館の舞台に立つことだ。
私文卒の記者は学歴ビームを防げなかったが、あえなく倒れるのも楽しい。でも、次回は、東大卒の先輩の学位記を借りて行くのもいいかもしれない。
（長田真美）
日経記事 2023.10.09より引用
