シーズン1の内容はほぼ書き尽くしたので、1-4から1-9はすっ飛ばし、1-10のラスト辺りを書くことにする。
フォード博士の部屋に入っているシャーロットヘイル。彼女はフォードに引退を突き付ける。博士の部屋は「ヴンダーカマー」という、15~18世紀にかけてヨーロッパで作られていた、様々な珍品を集めた博物陳列室となっている。王侯貴族や学者や文人などの間で作られるようになったもので、後の博物館の前身といわれている。
ヘイルがフォード博士の部屋の中で、エスカランテの再現された町のジオラマをチラ見するが、このジオラマには既に反乱を起こすホスト達が配置されている。
フランクという古いホストが演奏しているピアノ曲は、ショパンの「夜想曲」である。
その後、メサハブではデスティンが作られたばかりのヘクターにいかがわしいことをしようとするシーンが挟まれる。このときデスティンがイヤホンを通じて聞いている曲はCANDY CASLEの「GLASS CANDY」。
さて、メイブが脱出のシナリオをアーノルドのIDによって仕込まれていると、シルベスタを通じて知ることになるのだが、これは別にアーノルドが生きているわけでもなんでもなく、単にフォードがアーノルドのIDを使って脱出のシナリオを入れたのである。
さて物語も佳境に入り、ついに黒服が自分の正体をドロレスに告白するシーンへ。ドロレスと最初に出会った街で、ウイリアムはドロレスを見つけるが、すでにドロレスは記憶をなくしておりウイリアムを思い出すことができない。ウイリアムは呆然となって立ち尽くすというシーンが印象的である。
このシーンは実は繰り返される。ドロレスがこの直後にウイリアムをボコボコにして、銃でウイリアムを撃とうとしたとき一瞬躊躇するのだが、ウイリアムはそのスキを見逃さず短剣でドロレスの腹を刺す。
「本物じゃないとまたわからせてくれた、ありがとうドロレス」と刺しながらウイリアムはわずかに笑みを浮かべて言うのだが、ここで先ほどの若きウイリアムが呆然となって立ち尽くすシーンの絵が映し出される。これは老いたウイリアムにとって悲しい現実なのだ。2度もそれを味わった、ということである。
「あなたは変わったわ」「お前が俺を変えたんだ」という二人のやり取り。
「お前が俺を変えたんだ」というセリフは、1-1でピーターアバナシーが娘のドロレスに言った言葉と同じであるが、意味するものは真逆である。
この後、ドロレスが怒り、ウイリアムをボコボコにするわけだが、このシーンは1-1において、黒服がアバナシーの家に現れたときと酷似している。
1-1では黒服が、ドロレスの首根っこを掴み納屋に無理やり連れていくのだが、ここでは逆にドロレスがウイリアムの首根っこを掴み、教会の祭壇まで引きずっていく。教会の出口でウイリアムを突き落とすドロレス。銃を抜き抵抗しようとするウイリアムの銃を手で払いのけるドロレスは、1-1における立場が完全に逆転している。
その後テディが馬にのって登場し、ウイリアムを打ち気絶させるシーンも、1-1で「お前は負け犬になるためにいるんだ」というシーンとは立場が逆転している。
このドロレスとテディの行動の筋書きは、フォードによって組み込まれたものだろうと思われるが確証はない。
さて、シーンはドロレスとフォードの会話の中で、アーノルドの自殺に関するエピソードへと移る。
作中何度もエスカランテでの惨劇のシーンが、ドロレスやテディの記憶の中で出てくるが、その記憶のどれもが改変されたものであった。しかし今やドロレスはハッキリとそのときの記憶を取り戻し、アーノルドが意識を持ち始めたホストをパーク開業の直前に自分もろとも消すという行動に出たということを思い出す。アーノルドの「ワイアットのシナリオ」とはいえ、ドロレスは自分の意思ではないものの、アーノルドを撃ち殺したという記憶が蘇る。
そして背景の蓄音機で鳴っている曲はドビュッシーの「レベリー」。アーノルドの息子のチャーリーのお気に入りの曲である。
「激しい喜びには激しい破滅を伴う」アーノルドの最期の言葉であることがここで分かる。この言葉はシェークスピアのロミオとジュリエットにおいて、ローレンス神父がロミオに対して言った言葉。ここからみるに、アーノルドはシェークスピアの言葉の引用が好きだったようである。ピーターアバナシーがドロレスの父親の役ではなく教授だった30数年前、ピーターにはシェークスピアとガートルートスタインのセリフが多く入力されていた。
ドロレスはアーノルドを撃ち、テディを撃ち、そして最後に自分自身を撃つ。この時のテディの倒れ方は、1-1で黒服に撃たれて倒れるものとよく似ている。まるでシーンの1つ1つが、ホストに何かを思い出すように作為的に仕立て上げられているとしか思えないようである。
さて、ドロレスはついに自分自身と対話するシーンを通じて意識を獲得する。
ここでフィナーレと繋がっていく。
自動演奏の曲はexit music(for a film)
歌詞は以下の通り。
Wake
起きて
From your sleep
目を覚まして
The drying of
Your tears
君の涙が乾いたら
Today
今日
We escape
一緒に逃げ出そう
We escape
一緒に逃げ出すんだ
Pack
荷物をまとめ
And get dressed
着替えるんだ
Before your father hears us
君の父が聞きつける前に
Before
All hell
まずい事になる前に
Breaks loose
逃げ出そう
Breathe
息をして
Keep breathing
息をし続けて
Don’t lose
Your nerve
怖気づいちゃダメだ
Breathe
息をして
Keep breathing
息をし続けて
I can’t do this
Alone
一人じゃ無理なんだ
Sing
歌って
Us a song
一緒に
A song to keep
Us warm
歌が
温めてくれる
There’s
Such a chill
ここはとても寒い
Such a chill
とても寒いから
You can laugh
お前らは笑うんだ
A spineless laugh
腰抜けの笑い
We hope your
Rules and wisdom choke you
僕らは望む
お前らのルールや分別が、お前らの首を絞めるのを
Now
今
We are one
僕らはひとつ
In everlasting peace
永遠の平和の中で
We hope that you choke
お前らの首が締まる
That you choke
首が絞まるんだ
We hope that you choke
お前らの首が締まる
That you choke
首が絞まるんだ
We hope
僕らは望む
That you choke
お前らの首が締まる
That you choke
首が絞まっていくんだ
ホストの覚醒と反乱、そしてそれによって慌てふためく人間たちを想起させるような歌詞になっている。ドラマの中ではこの曲の歌詞は出てこなくて、ピアノとオーケストラの音だけになっているが、曲についている歌詞を、カメラワークと合わせて是非見ていただきたい。ものすごく調和をしている。
「我々の犯した罪の牢獄です」
このセリフは、覚醒したアバナシーがフォードに突き付けた言葉でもある。
メイブが下車をする。脱出のシナリオから逸脱した。意思を獲得した感動的な場面。シナリオを逸脱させパークに残った理由は、娘という「設定」に対する自分の気持ちであった。「ただの設定」といいながら、自分の子供に対する愛が下車を決めたのである。このシーンは好きだ。
地下83階はもぬけの殻。パークの郊外でタバコをふかすウイリアムは森の方で不穏な音を聞く。
「はじめは戦争の頃、悪党が登場。名前はワイアット。殺人を犯す。今度は自分の意思で」
「今度は自分の意思で」というところがゾクっとくるほど心地よい。
テディが壇上に向かうドロレスを見たとき、彼の記憶が蘇る。
それは、最初はフォードによってインストールされたワイアットのシナリオによる偽りの情景だが、その直後に隠されていた本当の記憶であるアーノルドの自殺という情景。
ほぼ同時に、バーナードも銃をもって登壇しようとするドロレスを見たときに、思わず口走ってしまう。
「激しい喜びは激しい破滅を」
これはテディと同じで、バーナードはアーノルドを元にして作られたホストだから、隠された記憶を酷似した状況下で思い出しているのだ。
後ろではずっとレベリーが流れている。同じ旋律のタイミングでドロレスは今度は(自分の意識で)フォードに対して引き金を引く。
ほぼ同時にウイリアムも、地下83階から解放された覚醒したホストに腕を打ち抜かれる。
慌てふためき逃げ惑う人間と、無表情で棒立ちのままの(非覚醒の)ホストとの対比を見せる。
銃を撃ち殺しまくるドロレス、呆然と驚いて目を剝くテディ、眉をひそめるバーナード、笑みをうっすら浮かべるリーバス、そして満面の笑みを浮かべるウイリアム。
いつしかレベリーの曲は、ノイズの入る蓄音機の音に変わっている。
蓄音機の曲の終わりと共にEND。
視聴者はこのフィナーレをホストに感情移入して見ている。ずっと抑圧され続けていたホストが、最後の最後のシーンで解放される。ドロレスの目が座った殺人鬼のシーンで終わるわけだが、なぜか我々はこのシーンを「痛快」に見れてしまうのだ。カタルシスを感じるわけだ。
シーズン1の1-10。exit musicが流れてからのフィナーレまでの約7分間はウエストワールド最高峰のシーンであり、これがあるがゆえに、シーズン2やシーズン3はシーズン1には遠く及ばないのである。