表参道と246の交差点の丸正のあるビルの5階に、ピアノラウンジがあった。
バブルの頃は活気があったんだろう。
いつも貸切状態で、ピアノもチューニングが狂ったまま放置されていた。
オーナーが健在だった頃は、地元の地主やビルのオーナー連中が顔を出していて、
女の子達もわりと若かったんだと思う。
僕は、そこのゴミ置き場のようになっていた非常口から、ギターケースに守られていた
古いタカミネのクラッシクギターを見つけ出した。
弦はさすがに切れていたが、メンテナンスをすれば十分に使える代物だった。
女の子達は殆どが30代で、銀座、赤坂、六本木で稼げなくなったか、
掛け持ちで来ているような女の子達だった。
その中に、一人、ハーレーに乗っている女性がいた。
それが、ユミだった。
皮肉にも付き合っていた彼女と同じ名前だったが、源氏名だと思っていたし呼び難いなと思った位だった。
ユミは、港区の田町の方で倉庫を改装して暮らしていると言っていたが、
ハーレー乗って倉庫に暮らす女性というだけで、物凄いそそられた。
僕はバーテンの知り合いということで、その店のキッチンを任されていた。
ということでというのは、大人の事情だろう。
深く気にしなかったが、オーナーが亡くなってからは奥さんがママということで切り盛りしていた。
バーテンは何か企んでいたのかな。。。
皆、僕にとても優しくしてくれた。
僕が音楽をやっているのも理解していてくれ、殆どギターばかり弾いていたし、曲を作る時間もたっぷりあった。
ある日、僕がタカミネのギターをメンテナンスし、オープン前にギターを弾いていると、
雨に濡れたユミが出勤してきた。
「おはよ。」
タオルで頭を拭きながらショットのヴィンテージの皮ジャンを放りなげて言った。
唐突さに驚いた。
「おはようございます。早いんすね。」
僕はギターをケースにしまい、オレンジジュースをユミに差し出した。
「雨降ってきちゃって、本降りになる前にと思って予定切り上げて来ちゃった。」
外を見ると、表参道のイルミネーションが雨で滲んでいた。
「結構降ってますね。今日は暇かな。」
「いつものことでしょ。」
ユミは笑いながら言った。
笑顔がめちゃくちゃ可愛かった。
「ねぇ、なんか弾いてよ。」
「え?」
「ギター。」
ギターケースを指さしながら笑顔でウインクされた。
僕の脳汁が沸騰し出した。
「何知ってんすか?」
「ロックなの弾いてよ。」
僕を司る前頭葉は、性欲に支配されていた。
いつかに続く