rosemary days

アロマテラピー、ハーブを中心にフィトテラピーあれこれ。自然療法全域とフィットネスについて。

『デイヴィッド・コパーフィールド』~ウイキョウ水と丁子の気付け薬

2016-03-19 22:12:30 | 物語の中の植物と香り

デイヴィッド・コパフィールドはその名の主人公の波乱万丈な半生を描いた大作長編小説です。1巻は主に子ども時代、母親の再婚相手に虐められ、母親が亡くなると家から追い出されて、たかだか10歳の子どもであるにもかかわらず学校も辞めさせられ肉体労働をさせられます。しばらくは頑張って働いていたものの全く暮らしが良くなる兆しもない状況に嘆いて、たった1人の肉親である大伯母を頼ってロンドンからドーバーまで歩いていきます。伯母さんに会った時には乞食のようにボロボロになっていて、これまでの苦労を語って大泣きしてしまいます。

興奮しているデイヴィッドを鎮めようと伯母さんは彼の口の中に次々といろんなものを注ぎいれます。

とうとう私が泣きだすと、急に立ち上がって、私の襟首をつかみ、ぐんぐん居間へ引きずっていった。入ると、まず高い戸棚の錠前を開けて、何か瓶を5、6本取り出してくると、やたらにそれらを私の口に流し込んだ。(中略)どうも味から見て、ウイキョウ水もあれば、ひしこソースもある。かと思えば、サラダ油らしい味も、確かにしたからである。[新潮文庫版・中野好夫訳]

伯母さんも慣れない状況に慌てているのがわかります。ウイキョウ水はフェンネルを蒸留したフェンネル・ウォーターのことのようです。フェンネルはお腹の調子を整えるハーブとして有名ですが、気持ちを落ち着かせる働きもしたようです。この時代の小説にハイドロゾルが出てきたなんて感激です。それからひしこソースはひしこイワシというイワシから作るソースのようで、アンチョビにたいな味なのではないでしょうか?そしてサラダ油。伯母さんは気付け薬として使ったようですが、かなり強烈な味がしそうです。

 

2巻はカンタベリーの学校へ通い、卒業後ロンドンの法律事務所へ就職し、上司の娘に恋をするところまでが描かれています。ロンドンの下宿はミセス・クラップという未亡人が大家なのですが、おせっかいで何かと首を突っ込んでくるくせに頼まれたことは気が進まないとやらないという、ちょっと困った大家さんです。ある日恋煩い中のデイヴィッドの部屋へひょこっとやってきます。

ショウズク・チンキに大黄と、丁子の精を7滴たらしたあの薬、私の病気には特効薬なんだが、少しいただけないだろうか?---もしお持ちでないのなら、ブランデーを少しでもよろしい。あれも効くから。[新潮文庫版・中野好夫訳]

デイヴィッドはミセス・クラップの特効薬なんて何のことやらわからないし、当然持っているはずはありません。何のことはない、恋話をつまみにブランデーをたかりにきたんですね。ブランデーも気付け薬にはなりますが、上の薬もかなり効きそうです。ショウズクはカルダモン。大黄は漢方の便秘薬としても有名なルバーブ。それから丁子はクローブ。カルダモンのチンキの中にルバーブはどういう形で入っているのかわかりませんが、そこにクローブの精と言うのは多分精油のことですかね。精油を内服することは現在ではいけませんが、この時代はもしかすると内用薬として使われていたのかもしれません。まあ、●●コーラにも入っているようですけど。それにしても、かなり滋養強壮効果は高そうです。おそらくミセス・クラップは体が冷えやすい体質の方だったんではないでしょうか。

ストーリーの主軸ではありませんが、こんな風に小説の中にハーブや精油が出てくると別な意味でも興味が増してきます。

 


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