豚も杓子も。

私にすれば上出来じゃん!と開き直って、日々新たに生活しています。

「冬の絵空」

2008年12月23日 | Weblog
今年最後の観劇です、 「冬の絵空」 。忠臣蔵を題材にしたお芝居でした。


虚実皮膜。そんな言葉を高校生の頃に習いましたが、「虚」が「実」になったとお話というべきでしょうか。結局、「実」は成仏できませんでした・・・。なにやら、虚が実を圧倒しているような今日の経済社会を写している様でもありますね。

世の中の空気、というものがあるなら、それこそが何が正しいか正しくないかを無視して世の中を作り出していくのか。そんな思いに駆られたお芝居でした。史実・・・というか、世間に流布されてきた松の廊下の刃傷沙汰以降の経緯が、実は首謀者の大石の思いをはるかに超えた力によって、後世まで語り継がれていく英雄伝になっていく様子が、工夫された巧みな場面展開の中で描かれていきました。
虚と実、真実と嘘。この間の境界がおぼろげになる時、虚は実を超え、嘘もまた真実となるのか。お芝居の冒頭で怪しげな異界の魔物たちが登場し、二つの狭間に落ちているわが身の苦境を語ります。ひとつの物語がつぶさに語られたのち、虚が実となった時にその魔物たちは成仏しますが、結局、真実に固執したある存在はひとり二つの狭間に取り残されたままに舞台は幕を閉じました。

「虚」の世界に生きてきた歌舞伎役者に藤木直人さん。「真実」を生きようとする大石内蔵助に橋本じゅんさん、全ての仕掛け人の商人天野屋に生瀬勝久さん、その娘に中越典子さん、吉良上野介に粟根まことさん、そして片桐仁さんや加藤貴子さん・・などなどという豪華な出演陣。期待が高まりすぎていたのか、正直、一幕目はどうもなにかが噛み合わないようなちぐはぐさを感じてしまいました。でも、休憩を挟んだ二幕目は、お芝居の方向が見え始めて来た頃から盛り返してきたように思いました。
実の世界に生きようと思った歌舞伎役者と、主君の仇討ちに己の価値を見出そうとした名ばかりの武士たち、その両者の思いが噛み合った瞬間、実に向かって虚が走り出しました。その後押しをしたのが、閉塞感を払拭する爽快な何かを得たいと願う世の中の空気だったのかもしれません。

丁度今、そういう空気を感じると言われていることを思うとき、その先に何が生まれてくるのか、恐ろしい。そんな感慨も抱きつつ、例年通りクリスマスモードで華やいだ街を歩いて帰りました。


P.S.「ダブリンの鐘つきカビ人間」が初舞台だった中越さんのぐんと成長されたお姿。お美しく頼もしい限り!メイクが薄めのじゅんさん。重厚にしてキュートでした!粟根さんの変わらない目線。より効果的でした!お二人だけの場面は特にしっかりと観てしまいました。ムフ。