さいかち亭雑記

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水島朝穂『戦争とたたかう 憲法学者久田栄正のルソン島戦体験』

2016年08月09日 | 
 戦争についての本をこの時期は読むことにしている。今年はこの本を選んだ。

「ポソロビオにいた時、警察署長のデソンが私に、当時経理室に出入りしていた男が、日本軍の捕虜になってバターンでひどい目にあい、日本軍を恨んでいると教えてくれたので、私はバターンではひどいことをやったのだなと思っていた。そのことが頭にあったので、その報復だとピーンと来た。(略)
私たちは、ボントック道五二キロ地点からバギオの収容所までの間五六キロを、二日間五食を飲まず食わずで行進させられたわけです。これはどうみても、捕虜となった日本兵を必要以上に虐待したものといわざるをえない。」 (「バターン死の行進の報復」)

 バターン死の行進については、よく知られている。しかし、栄養失調でマラリアにかかっていることが多かった日本兵を二日間飲まず食わずの絶食状態で歩かせて死者続出となったこの事実は、ほとんど知られていない。ルソン戦の評価をめぐって、久田栄正は次のように述べている。

「「本土上陸を阻止した」という形で、あの戦闘を美化することは許されない。戦争目的からすれば無駄死だったという事実をおさえ、そういう無駄死に追い込んでいった者たちの責任、指導者たちの戦争責任を追及しなければならない。そのうえでルソンのあの多大な犠牲は、平和憲法を生み出す大きな礎になったのだ。こう考えるべきだと思うのです。」

 私はある時、故松本健一氏にこう質問したことがある。

「私が学生の頃に教わった橋川文三先生は、思想というのは、きちんと葬らないと亡霊が出る、と書いたことがありますが、松本先生は、この言葉から思う事がございますか。」

 少し考えてから、松本氏は、次のように答えた。

「そうですね。それは「国体」という言葉です。「国体」という言葉だけは、絶対に甦らせてはならない。橋川氏の言うような意味において思い浮かぶのは、この言葉ですね。」
ときっぱりと答えた。


 



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