“散る花と咲く花がいつもここにある”のブログより移行しています
1話~11話はこちらで公開しています
※このドラマは実在した奇皇后の物語ですが 架空の人物や事件が扱われ
史実とは異なる創作の部分があります
第32話 真の皇帝
『私に 用でもあるのか?』
『なぜ訪ねてきたか ご存知でしょう?』
『早く要件を言え! 私はそんなに暇ではない!』
『それはそうでしょう! 皇子様の暗殺を企てた犯人を仕立てるためには
たとえ一刻でも 惜しいでしょうから!』
おそらく 仕立て上げられた犯人は キ・ヤンに命じられたと白状する
皇后に嫉妬するあまり 皇子を殺せと命じたのだと…!
さらには ペガン長官も共犯だと告白し 皆への見せしめにするのだろうと!
今回の企てを 確実に言い当てるキ・ヤンに ヨンチョルは感心するばかり
ヤンの言葉は淀みなく まだ続くようである
自分とペガン長官を抹殺した後は 行省の長官らを集め
クリルタイにおいて “親政に反対せよ”と命じるつもりだろう
さもなくば ペガンと同じく消してやる…! そう脅すだけだと
※クリルタイ:遊牧民モンゴル人の部族長会議 モンゴル国家の国会にあたる
なぜここまで言われても 丞相ヨンチョルは冷静でいられるのか
それは キ・ヤンが何も出来ないと確信しているからである
企みが分かったところで それは大して問題ではないのだと…
しかし ヨンチョルより さらに冷静な態度で キ・ヤンはこう言い放つ
『私とペガン長官を犯人にすることは おそらく出来ないでしょう
もしそうなれば そう仕向けたのは丞相だと 皆に知らせることになる
企てのため 可愛い孫にさえ刺客を差し向ける残忍な丞相
世間がそう思うことになるのです
これまでの名声など たった一瞬で消え去りますよ』
『黙れ!!! そんな出任せなどに騙されるものか!』
『ならば試してみることです 別に止めはしません
さてどんな結末になるのか 楽しみにしています』
ゆっくりと一礼し キ・ヤンは退室した
ニコリと笑うその表情に 背筋が寒くなる2人の息子
丞相ヨンチョルは 二の句が継げずに黙り込む…!
才人キ・ヤンは タルタルの教えを受け 一か八かの懸けに出たのだ
諸葛孔明は 3千にも満たぬ兵で 司馬懿率いる15万の大軍に勝った
勝因は 自らの戦略を 決して明かさなかったからだという
敵情がまったく掴めぬとしたら いかに大軍でも動きが取れない
側室ごときが どうせ何も出来ぬと 自信に満ちた丞相に
一世一代のハッタリで 言い知れぬ不安を与えたのだ
屋敷の外に出たキ・ヤンを ペガンとタルタルが待っていた
丞相と対峙し 堂々と渡り合ってみせたキ・ヤンに 度肝を抜かれる2人
ヨンチョルは キ・ヤンがどう出るつもりなのか 判断出来ずにいた
ヤンは元々 ワン・ユの部下だったことから ワン・ユに意見を求める
たった一度の失敗が これまで積み重ねたものを台無しにすることがある
ワン・ユは もし自分なら あの者だけは避けて通ると答えた
一方 皇太后は
皇后タナシルリが 勝手に冷宮を出たとの報告に激怒していた
トクマンの報告によれば 皇子を思うあまり失神し 居所に移された
意識は戻ったが 断食をして“冷宮には戻らぬ!”と抵抗しているという
※冷宮:罪を犯した王族を幽閉する場所
このまま皇后が餓死でもすれば 皇太后が責任を問われると
側近チャン・スニョンは 事を荒立てるべきではないと進言する
居所に戻ったタナシルリは 久々の甘い菓子を口いっぱいに頬張り
これまでの空腹を取り戻すかのように なりふり構わず食べている
ソ尚宮とヨン尚宮は いつ誰が来るかと気が気ではなく
それでも 外へ聞こえるように 何かお食べください!と叫び続ける
皇后が食を断っていると 宮殿中に噂が広がるように…!
そこへ 皇太后の来訪を告げる声が響き渡り
タナシルリは 慌てて菓子を飲み込み 寝込んでいるフリをする…!
皇太后は容赦なく ソ尚宮に対し 早く冷宮へお連れしろと命じた
タナシルリは 激怒して起き上がり 1人では戻らぬと叫ぶ
皇子を殺そうとする皇太后様から 何としても我が子を守らねばと…!
面と向かって刺客の黒幕と名指しされ 絶句する皇太后
そこへ トクマンが駆け込み 刺客が 黒幕の名を白状したと報告する
刺客の供述により 陜西行省の長官チョクコンが 黒幕として捕えられた
キ・ヤンのハッタリが 功を奏したというわけだ
チョクコンを連行するタンギセが キ・ヤンとすれ違う
『何としても玉璽を守ろうとする様が 実に涙ぐましいですね』
『今 玉座に座っている方には 到底国政など任せられません』
『陛下はもう 以前の陛下ではありません!』
『はい知っています! キ・ヤン様のおかげですっかり変わられた!
どうかもう 陛下を操らないでください!
側室は側室らしく 慎ましく生きるべきでは?!』
そこへ ペガン長官が割って入り 臣下も臣下らしくすべきだと釘を刺す
互いに手の内を明かした者同士 タルタルは 今後の行方に言及する
やがて宮中には 暗雲が立ち込め 血の雨が降ることになると…!
陜西行省長官チョクコンと その娘モラン嬢は 厳しく拷問され
他の長官らの中に 協力者がいるはずだと尋問される
そもそも身に覚えの無い罪に 共犯者を吐けと言われても戸惑うばかり
このまま罪を着せられ死ぬしかないのかと 無念に涙するチョクコン
そこへ 皇帝タファンが現れ 黒幕は自分だと言い放つ…!
『キ・ヤンに命じられたので? そう言えば長官らが感銘するとでも?!
そんな浅知恵で 国を統治できるとお思いですか?!!』
『すべては 明日のクリルタイで決まるのです
丞相の独断ではなく 長官ら全員の合意があってこそです!』
誰がどう考えても チョクコンが黒幕とは言い難い
それを捕えて 煮えたぎる油で窯茹での刑に処するというヨンチョル
あまりに残忍な丞相に対し 長官らが チョクコンの釈放を要求する
『これが私の答えだ!』
差し出された箱をの中には チョクコンの生首が…!!!
震え上がる長官らを前に ヨンチョルは 逆らえばこうなる!と言い放つ
『戦場で最もバカな奴は 大義や自尊心を振りかざして死にゆく者だ!
チョクコンのようになりたくなければ… よく考えることだ!!!』
絶対的な恐怖心を与え 長官らを従えようとするヨンチョル
もはや隠すことなく 牙を剥き出しにする丞相に 長官らは黙り込む
そして一夜明け クリルタイが再開される
審議が始まる前に 皇帝タファンは 自らの不甲斐なさを口にする
いかに無能で いかに情けない皇帝であったかと 長官らに詫びたのだ
そして このままでは終わりたくないと訴えかける
今一度だけ自分を信じ 親政を執らせてほしいと願った
しかし タファンの心からの訴えも虚しく…
皇帝の親政に同意したのは 長官ペガンただ1人だった
この事実は 皇太后殿にも報告され もう成す術もないと肩を落とす皇太后
大明殿を後にする丞相の行列が 才人キ・ヤンの行列とすれ違う
『感謝します』
『何をだ?』
『丞相の非情さが 陛下を鍛え上げ ますます強くおなりです
獅子が我が仔を谷に落とす如く 丞相の存在こそが 陛下を成長させるのです』
丞相への恐怖心で 親政に賛成することが出来なかった長官らが
泣きながらタファンの前に土下座し 心から不忠を詫びている
確かに敗北はしたものの タファンは 長官らの 真の忠誠心を得たのだ
『キ・ヤンと言ったか そなたの名を しかと心に刻んだぞ!
果たして この意味が分かるかな? いずれ後悔することになるだろう』
そう言い捨て去って行くヨンチョル
その表情の奥には笑みが浮かび ヤンを見る眼差しに怒りはなかった
皆が去った大明殿で ひとり玉座でうなだれるタファン
そんなタファンに声をかけ これで終わりではないというキ・ヤン
丞相は 玉璽を守ろうとして人心を失い 陛下は長官らの心を獲得した
ならばこの勝負は 陛下の勝ちだと ヤンは優しく微笑んだ
『ひと冬越えれば 凍える木々も年輪を重ねていきます
陛下もまた 真の皇帝となるための 試練の真っただ中なのです』
この言葉に癒され 皇帝タファンは元気を取り戻した
ヤンの存在がある限り 何にも耐え得る勇気が湧いてくるタファンであった
皇后タナシルリが 正式に後宮へ戻った
そこで 皇太后に断りもなく さっそく朝礼を開くというタナシルリ
おそらく 冷宮送りになった恨みを 側室らにぶつけて発散するつもりなのだ
※後宮:后妃や女官が住む宮中の奥御殿
皇太后は キ・ヤンに 朝礼を取り仕切るようにと命じていく
皇后の印章が 皇太后の元にある限り タナシルリの自由にはならない
『側室と女官たちに キ・ヤンの言葉は私の言葉だと申し付けよ!
皇后はただのお飾りに過ぎぬ! 真の皇后はキ・ヤンだと思い知らせるのだ』
皇后タナシルリが 朝礼殿に向かうと すでに朝礼が始まっていた
勝手に朝礼を進行するキ・ヤンに激怒し 服を脱がせろと命ずるが
それに従う者は 誰ひとりとしていない
しかし キ・ヤンが前を向けと命ずれば前を 後ろを向けといえば後ろを
すべての者が ヤンの命ずるままに動いてみせる
『印章を持つ皇太后様が 私に全権を与えたのです
皇后様は 直ちに居室へお戻りを! さもなくば女官に引きずらせます
まさか それをお望みで?』
タナシルリより ソ尚宮とヨン尚宮の方が悔しがり
このまま黙っているのですか!と詰め寄った
しかしタナシルリは 余裕の表情でほくそ笑む
『間もなく消える女だ せいぜい威張るがよい』
数日後に開催される狩猟大会に 参加を命じられるワン・ユ
丞相ヨンチョルは この大会で大物を仕留めるというのだ
玉璽は守ったが 圧倒的に不利だということは承知している
皇后も印章を奪われ 事実上 後宮の権限は才人キ・ヤンが握っている
ヨンチョルは 狩猟大会の最終日に 皇帝とキ・ヤンを始末するつもりだ!
2人の息子は この計画を 親衛隊長ヨム・ビョンスに打ち明ける
『謀反… ですか?』
『バカを言うな!!! これは列記とした“狩り”だ!
ただ獲物が動物ではなく 皇帝とヤンなだけだ』
いくら何でも 皇帝を殺せとは… 表情を強張らせるビョンス
『成功すれば お前は新たに即位する皇帝の一等功臣となる
大臣だろうと何だろうと 望むままに地位を与えられ栄華を極められる』
タンギセの言葉に ビョンスは 大臣になった自らの未来を想像する
密かにヨン尚宮を呼び出し 大臣になったら正室に迎えるという
『私が尚宮だということを お忘れですか?』
『皇帝の首が挿げ替えられるんだ そんなことはどうにでもなる!』
一方 ヨンビスは メバクからヨンチョルへの書状を奪いワン・ユに届けた
書状には 商団から丞相へ資金を要請する内容が書かれている
つまり 商団が丞相を援助していたのではなく まったく逆だということだ
一体ヨンチョルは どれほどの資金を持っているのか…!
やはり勝てるわけがないと 弱音を吐くヨンビス
自らの部族が滅びたのは 引き際を見極めず 諦められなかったからだと…
そんなヨンビスに真剣を渡し 木刀で勝負を挑むワン・ユ
死に物狂いで戦えば たとえ木刀でも真剣に勝てるのだと見せつけ
ヨンビスの中の闘争心を 引き出したかったのだ
『戦う前から 勝負が決まったように言うな!
例え道が分からずとも 知ったかぶりをしろ!
君主が諦めた瞬間 国も部族も消えてしまうのだ
簡単に諦めることは 信じて忠誠を誓う者たちへの礼儀に反する!』
諦めずに悪あがきしたから滅びたのではなく
諦めたがゆえに 滅ぶ道しかなかったのだと…!
狩猟大会当日
着飾って現れた皇后タナシルリ
才人キ・ヤンと共に現れたタファンは あからさまに不快感を示す
タナシルリは 死ぬ運命にある2人を見つめ ニヤリと笑う
タファンとヤンは 狩りをそっちのけで乗馬を楽しんだ
侍従コルタは タファンを守らねばと 部下を引き連れ追いかける!!!
タファンがまだ皇太子だった頃
大青(テチョン)島で 同じように馬を駆り競争したことがある
あの時 タファンは スンニャンの馬に飛び乗り 強引に落馬させた
男だと思っていたスンニャンが 今は“才人キ・ヤン”として側室に…
その日の狩りが終了し 天幕の寝所で休む皇后
タナシルリは なぜ急に ワン・ユが冷たい態度をとるのかと気にかかる
ワン・ユを見かけ 挨拶したタナシルリだが 見事に無視されたのだ
以前は あんなにしつこく追いかけてきたくせに…
ソ尚宮は 皇后の大いなる勘違いを正そうと
ワン・ユは昔 キ・ヤンを愛していたと報告する
聞き捨てならない話に 憤慨するタナシルリ!
側室とあろう者が 昔とはいえ他の男と?!!!
『男女の仲は簡単に切れはしない 今もそうであるなら…
よし! あの2人を会わせてみよう…!』
タナシルリの悪戯心から 4人で宴卓を囲むことになった
酒が進まないヤンに 酔うと不都合なことでもあるのか?と煽っていく
泥酔して 何か口走るのが怖いか?と言われ 勢いよく飲み干すヤン
反発心と意地の張り合いから とうとう飲み比べが始まってしまう
こうなってしまっては 誰にも止めることは出来ない
同じ時
タンギセは 明日の決行を前に 入念な打ち合わせをしていた
ヨム・ビョンスは 親衛隊を率い 夜中のうちに出発する
パン・シヌたちは 真夜中に野営地を出る親衛隊を目撃し
怪しんで尾行することに…!
宴の席では タナシルリが泥酔し 陛下の心はどこにあるのかと絡む
ヤンを酔わせるつもりが 自分の方こそ酔ってしまったようだ
どうせこの女さえいればいいのだろう!と悪態をつき
絡み酒の矛先は ワン・ユの方へ向かう
『この大都に 思いを寄せるお方がいるとか
一体 どんなお方なのか 以前に部下だったお前なら知っているか?』
あまりに無粋で 失礼極まりない皇后に タファンが声を荒げる
ワン・ユは 『その者は死んだ』と答え 退室してしまう
4人共 不愉快な思いのまま 宴はお開きとなった
本当は あまり酒が強くないヤンを タファンが支える
今はもう 皇帝が最も寵愛する側室となったスンニャン
皇帝に寄りかかる後姿を 静かに見送るワン・ユ
皇后でありながら 置き去りにされたタナシルリは
そんなワン・ユの切なげな視線に気づき 酔いなど醒めてしまった
皇帝も 高麗(コリョ)の廃王も なぜ自分よりあの女を?
そう思うと悔しくて 怒りが込み上げて仕方がないタナシルリであった
タファンは 皇帝の寝所に ヤンを連れて行く
もう大丈夫と言い 自分の天幕へ戻ろうとするヤン
その手を引き 寝台に横たわらせ 静かに抱きしめる
『今夜は… そなたが欲しい』