被災地の現状:首長アンケート 進む復興、地域格差
東日本大震災から4年に合わせて、毎日新聞は震災で大きな被害を受けた岩手、宮城、福島3県42市町村の首長に復興に向けた課題や現状を聞くアンケートを実施した。2015年度で区切りとなる集中復興期間後の財源確保を懸念する声が多く、生活の根幹である「住まい」の復興遅れは依然として続いている。一方、復興工事の進捗(しんちょく)について「かなり進んでいる」と回答する自治体もあり、復興の地域間格差も生まれつつある。
◆復興の障害
◇「集中期間後」に不安
42自治体(岩手12、宮城15、福島15)に震災半年後から毎回聞いている「復興へ向けた最大の障害や課題」は、今回も「財源」と答えた首長が13人(岩手4、宮城8、福島1)と最も多かった。国が当初設定した「集中復興期間」(5年)の最終年度を迎えるにあたり、翌年度以降、国がどのような財政支援を継続するのかが、最大関心事になっている。
自治体の財源問題は、政府の復興基本方針を受け、11年10月に本格的な復興予算となる12兆円の第3次補正予算が組まれ、当面の手当ては付いた。しかし、徐々に復興事業が本格化するなかで、建設資材の高騰や人手不足などにより工事の進捗に遅れが生じている。
岩手県久慈市は一部の事業で期間内の完成が困難になっていることを明らかにしたうえで、「現在の実質負担なしのスキーム継続が未定で、16年度以降の財源が懸念される」と、これまでと同様の支援継続を要望。宮城県利府町は「復興予算の圧縮などによっては、今後の事業進捗に影響を与えかねない」と懸念する。福島県飯舘村は「各事業の高率補助枠の確保」とさらなる拡充を要請する。
回答で次いで多かったのは「原発事故」で、福島県の15人のうち12人が挙げた。県内では汚染水問題のトラブルが続くなど、いまだに事故収束の見通しが立っていない。各自治体とも「住民帰還の障害になっている最大の課題」(富岡町)、「風評被害の払拭(ふっしょく)に困難を極めている」(いわき市)と、いら立ちを募らせている。
一方、各自治体の復旧・復興工事が進むなかで、自治体職員のマンパワー不足も依然として課題だ。総務省によると1月現在、被災3県の計41市町村から1506人の職員派遣要請があり、全国から1270人が派遣されているが、土木や建築職を中心に200人以上が不足している。
震災3年まで1割近くの回答があった「法制度の不備」や「国や県の復興構想や方針が具体性に欠ける」はゼロだった。住宅地高台移転などに向け懸案となっていた土地収用手続きの簡素化が、昨年4月の復興特区法改正で実現したためとみられる。
◆復興工事
◇7割「進んでいる」
復興工事の進捗状況は、仙台市、岩手県岩泉町、福島県田村市が「かなり進んでいる」と回答。「ある程度進んでいる」は岩手県大船渡市などが加わり、岩手8、宮城11、福島9の計28人となり、全体の7割の自治体で復興工事が進んでいるとの認識だ。
残る11自治体に「遅れ」の理由を選択式の複数回答で尋ねたところ、6人が「自治体職員不足」(岩手2、宮城2、福島2)、4人が「業者や作業員不足」(岩手1、宮城1、福島2)を挙げた。マンパワー不足に加え、「入札不調」(岩手3、宮城1)も続いている。
「その他」と回答した中には「区画整理事業の起工承諾に苦労している」(岩手県陸前高田市)、「住民との合意形成に時間を要し着手が遅れた」(宮城県名取市)、「除染が終了していない」(福島県飯舘村)といった声もあった。
また、各自治体に「復興で遅れているものは何か」(三つ以内選択)を聞いたところ、昨年9月の前回調査同様、「住まい」が18人(岩手7、宮城5、福島6)とトップ。次いで「防潮堤」が15人(岩手8、宮城7)と上位を占めた。
一方、前回16人と多かった「道路や鉄道」は10人(岩手4、宮城5、福島1)と減り、「商工業」が4人増えて12人(岩手4、宮城4、福島4)と逆転。交通機関の復旧が進む中で、復興の焦点が商店街などの地域の再生に移ってきている。「除染」は福島15人のうち8人が挙げた。
◆住民生活
◇仮設長期化が課題
「住民生活で一番問題になっていること」は、前回までの調査同様、津波で大きな被害を受けた岩手、宮城両県と、原発事故の被害に苦しむ福島県で異なっている。
岩手、宮城両県では27人のうち17人が「住居」と回答。「長期にわたる仮設住宅での生活で、将来への不安による心身の不調や生活再建意欲の減退が見受けられる」(宮城県女川町)など、依然、仮設生活の長期化が課題になっている。仙台市は「その他」を選択したものの、具体的な事例として「住宅再建と生活再建」を挙げ、「現在も約7100世帯が仮設住宅で暮らし、住まいと生活の再建を円滑に進めることが課題」とした。
福島県では大熊、富岡、飯舘、川内の4人が「帰還見通しが立たない」を挙げた。広野町は「東電の賠償金不足」を選択。「その他」を選択した自治体でも「除染」(川俣町)▽「全村避難からの住民帰還」(葛尾村)▽「原発事故によるコミュニティーの分断」(田村市)を挙げ、原発事故の収束が最優先課題だ。
一方、岩手県洋野町、宮城県岩沼市、福島県相馬市は「その他」として「特になし」と回答した。「全体としておおむね復旧している」(宮城県松島町)、「突出して問題になっているものはない」(同県利府町)など、住民生活は徐々に改善してきている。
◆原発政策
◇「将来的に全廃」半数
福島原発事故後の原発政策のあり方について、岩手、宮城県を含めた全42自治体に聞いたところ、「将来的に全廃すべきだ」とした首長は22人と、今回も半数を占めた。「その他」を選択した11人も「再生可能エネルギーなど、多様なエネルギーで原発依存度を低減させるべきだ」(仙台市)、「電力の安定供給のため原発が必要なら再稼働を検討すべきだが、将来的にはリスクの低い電力に移行すべきだ」(宮城県石巻市)などとし、中長期的には脱原発の方向性を多くが求めている。
福島県では、15自治体のうち8人が「将来的に全廃」を選んだ。全町避難中の富岡町は「最終処分場や核燃料サイクルの明確な考え方のない中での運用」と、現状での原発再稼働を批判。双葉町は「費用対効果も含めて代替エネルギーのあり方を議論すべきだ」とした。
約6700人が県内外に避難している飯舘村は「直ちに全廃するのは産業、日常生活に影響が出る」とし、県内では唯一「安全確認を厳しくして残すべきだ」を選択した。
残る6自治体は「その他」を選択。ほとんどの自治体は「県内は全基廃炉」のスタンスで一致しているが、「国の政策について述べると、他の原発の是非を論じることになる」(大熊町)などと明確な回答を避けた。
◆阪神の教訓
◇被災者のケア、参考に
阪神大震災から今年で20年が経過したのを受けて、今回の調査で「阪神の教訓は生かされたか」を尋ねた。被害の広域性や津波、原発事故など災害実態の質的な違いから、「十分でなかった」を含めて「生かされなかった」と答えたのは18人(岩手5、宮城5、福島8)と約4割に上り、「ある程度」を含めて「生かされた」とした16人(岩手5、宮城9、福島2)を上回った。
教訓が生きた事例としては「復興事業への財源措置」(岩手県普代村)▽「復興計画の速やかな策定」(同県久慈市)▽「避難所や仮設住宅の運営、被災者の心身のケア」(同県田野畑村)などが挙げられた。
宮城県塩釜市は「住宅や公共施設の耐震化を進めていた。地震被害はあったが、危機管理機能を失わず対応できた」と評価。同県南三陸町は「阪神では仮設住宅などで孤独死問題が発生したが、兵庫県からの応援職員の協力で対策を検討できた」と、自治体間の協力態勢が強化されたとした。
一方、福島県は15自治体のうち8人が「十分でなかった」と回答。「生かされた」と回答したのは「ある程度」が2人だった。「原発事故は地震災害と異なる」といった意見が根強く、5人は「検討段階にない」とした。
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◇調査方法
岩手、宮城、福島の3県沿岸部と、東京電力福島第1原発事故に伴う避難区域が設定された自治体の計42市町村長(岩手12、宮城15、福島15)を対象に、2月にアンケートした。調査は震災3カ月から始め、1年目は計4回、2年目以降、半年ごとに実施し、今回が10回目。