戦争法案は、憲法違反であることが最大の問題です。どうしても法律化するのであれば、前提は憲法の改正を国民に提案し、国民投票にかけるべきです。
その正規の手続きが成功しない、国民の信認が得られないことを知った上で、憲法の空文化を進めるのが今回の戦争法案の本質です。戦争するために国のあらゆる制度、法律を戦争動員に結びつけるために、あらゆる法案が関連しています。その複雑さを二つの法案にまとめるからこそ矛盾だらけの答弁と議論となるのです。
<信濃毎日社説>安保をただす 審議再開 ごった煮法案の無理
参院の特別委員会が安全保障関連法案の審議を再開した。ただでさえ議論すべき点が多いのに、防衛省の内部資料をめぐる問題も持ち上がっている。
法案の問題点の一つは、多岐にわたる内容を一気に推し進めようとしていることだ。
会期末までの1カ月余りで論点を掘り下げるのは無理がある。生煮えのまま採決することになりかねない。この法案は、やはり撤回・廃案しかない。
他国への攻撃を阻止するために自衛隊が武力を行使する集団的自衛権の解禁、「非戦闘地域」の枠を外しての他国軍支援、国連平和維持活動(PKO)での任務の拡大…。あれもこれも詰め込んだのが今度の法案だ。
論戦は拡散せざるを得ない。きのうの特別委でも中東・ホルムズ海峡での機雷掃海、PKOで自衛隊が離れた場所の他国軍などを助けに行く駆け付け警護など、さまざまな論点が取り上げられた。
政府は「国民の命と平和な暮らしを守るための法案」だと主張する。実際は、自衛隊の海外活動の拡大が主眼だ。内部資料は南シナ海での情報収集にも言及した。目くらましのため、ごった煮の法案にしたのではないか。
日本を取り巻く安保環境の厳しさを理由に挙げながら、自衛隊を積極的に海外へ出そうとする。脅威を強調しつつ、足元の守りを手薄にするのは矛盾している。
維新の党は、参院に出し直す対案を「領域警備法案」「周辺事態法改正案」など8本とした。衆院に提出し、否決された「平和安全整備法案」は、6本に分割している。対比すると、10の改正法案を1本にまとめた政府のやり方がいかに乱暴か分かる。
一つ一つの課題ごとに法整備の必要性や合憲性、妥当性について審議を尽くすのが筋だ。別々に考えるべき日本の防衛と国際貢献をひとまとめにして通そうとするところに問題がある。
国民の理解を得られるよう努力を重ねる―。安倍晋三首相はそう繰り返してきた。しかし、審議を重ねるほどに、理解を得られないことがはっきりした。
防衛省の内部資料は法案成立を前提に作成された。野党側は「国会軽視」と反発している。法案を先取りした動きが政府内で進んでいるのではないか―。そんな疑念を抱かせる。結論ありきで強行することは許されない。