夜中、トイレに行って 戻ってくると
ベッドが 「ま」さんだけのものになっていた。
身体の中心を対角線上に置き
腕と足を東西南北に投げ出し
正確に ベッド上のスペースを埋め尽くしている。
愛する夫は 永年の習慣ゆえにパンツを脱いで
大胆にも布団をずらし 秘密部分の風通しを完璧なものにしている。
天下無敵の豪放磊落な寝姿である。
大変結構なことであるが 私も 寝たいのである。
まさか 夫の上に横になるわけにもいかないし
ソファーに移動するのも気がすすまない。
このような場合、たぶん 多くの人がそうするように
私は夫の手足を除けることにした。
左肩をえんやこら!と起こし 身体を横向きにして
骨盤の向きを変え 左脚の位置を整えた。
夫の腿は かなり立派だ。上等のハムが何本もとれるくらいのボリュームがある。
ちなみに あらわになった秘密部分は 放置である。(何か対処したところで元の木阿弥なのだ。)
出来た隙間に 自分の身体を滑り込ませるのに成功した私は
すっかり満足し、有頂天になった。
そして、目を閉じようとした瞬間に電気を消し忘れた事実に気付いた。
目の前は真っ暗になったが 照明はこうこうと 二人を照らしている。
私は再び ベッドを下りなければならなかった。
電気を点けっぱなしにして寝たら 朝、何を言われるか知れたものではないのである。
心地よくぬるい布団の包み込むような愛と
新たな使命に 私の心は引き裂かれそうであった。
『でも、行かねばならぬ、行かねばならぬ、』と唸る私の上に
夫の左腕と左脚が落ちてきた。
痛くはないが 重いのである。
哀しい気持で 夫の左肩を押し上げ、せっかく確保した寝場所を離れ
むなしい気分全開で 照明を消した。ミッション終了である。
振り向くと やはり、
天下無敵の豪放磊落な寝姿。
双六でいうところの <ふりだしにもどる>である。