自分セラピー

「自分を好きでいる」ことは人生を豊かにしてくれます。そこに気づかせてくれる沢山のファンタジー文学を紹介していきます

『静かな大地』 池澤 夏樹

2010-11-30 08:41:39 | おもしろかった本
今年の初めに、『坂の上の雲』をずいぶん時間をかけて読破しました。


長編ものは、ワクワクするのだけれど、読む時間がなかなか取れないというジレンマがあります。

それでも、分厚い一冊や、何巻にもわたる物語に出会うと、気持ちが前のめりになって早く読みたい気持ちでいっぱいになる。


時代の移り変わりで、その時代の正しさに不埒な行為に腹が立つこともある。

もちろん、自然とともに生きていたその時代への郷愁やあこがれをもつこともあります。



明治が始まったころの日本が抱えた、価値観のカオスと、その中で信念を生きた人間の生きざまを深く味わった話でした。




『静かな大地』池澤夏樹



長編である。


北海道の雄大な大地を背景にした、主人公宗形三郎の人生を通して、日本が生まれた明治という時代やその頃に失われてしまった大切な「何か」を語り継ぐ歴史小説です。



淡路藩稲田家の家臣、宗形家が維新により、未来への希望を蝦夷と呼ばれていた土地に移住するところから物語は始まります。


長男である少年三郎が、北海道にたどり着いたときに見かけたアイヌ、オシアンクルと友人になり、アイヌたちの知恵と和人の知識を使い広大な豊かな土地にしていくのです。





「アイヌと和人の調和のとれた生活」は、一方で偏見や迫害、様々な妨害を受けることになります。


安定や、繁栄は、その全体への貢献よりも、周りへの嫉妬を呼ぶことにもなってしまいます。



これはどんな分野でも、どんな時代にもあることなのですが・・・・。



一つには成功物語であり、成功への道を切り開いた偉人の話でもある。


でも、物語は「未完のまま」であり、読んでいるボクたち自身がその物語の決着をつけなければならないのかもしれない。




和人とアイヌの関係は、今では日々の生活の中ではほとんど意識されることはないでしょう。


アイヌの存在は知っていても、日本人とアイヌという枠では、ボクはほとんど考える事はありません。


この物語にある和人とアイヌの関係を象徴的に見てみれば、それは誰の中にもある関係性。



心の中で知らずに境界線を引いてしまっている人間関係は誰の中にもあるかもしれない。


そんなかかわりに、理解やゆるし、協調や喜びをもたらすことは、誰にでもできること。



「無知は罪なり、知は空虚なり、叡智持つもの英雄なり」


ソクラテスのこの言葉は、2500年を経た今でも生きている。


道半ばで旅立ってしまった三郎は、ボクにとって「叡智ある英雄」でした。




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