繁浩太郎の自動車と世の中ブログ(新)

モータージャーナリストとブランドコンサルタントの両方の眼で、自動車と社会をしっかりと見ていきます。

「コロナ後の自動車産業」

2020-06-22 18:22:15 | 日記

この記事は、4月と5月に日刊自動車新聞に掲載されたものです。

 

〈車笛〉連載「コロナ後の自動車産業」〈上〉繁 浩太郎 

 

「コロナ後」には移動の概念が大きく変わることで、軽が一層注目されることになるかもしれない

 世界は新型コロナウイルスのニュースであふれている。この原稿を書いている4月中旬の時点で、まだまだ出口は見えていない。不安でしょうがないが、極度に悲観的になって体調まで崩しては元も子もない。コロナが収束する日は必ず来ると考えよう。今回は「コロナ後の自動車産業」を私なりに考えてみたい。

 現在、自動車産業は新型コロナウイルスの影響で生産が滞るのと同時に、ユーザーの購入意欲も落ち込み、厳しい局面を迎えている。日本自動車工業会の会長を務める豊田章男・トヨタ自動車社長は、3月19日に開いた定例会見で「こんなにも、世の中がガラッと変わることがあるのか」と現状を表現した。

 現実的に、知り合いの自動車販売店に聞いてみても、新車販売は半分以下に激減しており、さらにもともと自動車販売店の収入源の柱である車検などのサービス領域も落ち込んでいるそうだ。今年の後半戦に希望を持って今は頑張っていると話していた。持久戦のような形になっているので、長引くと息切れする自動車販売店も出てくるかもしれない。本当に、ガラッと自動車産業をとりまく状況は変わった。

 「コロナ後」と言っても、災害などのショックがあって復興するのでなく、相手はウイルスなので完璧にはこの世から無くならず、また感染力も強そうなので、気を許すとまたすぐ感染が広まる可能性はありそうだ。つまり、スイッチが切り替わるように「コロナ後」が明確にならないのではないかと思われる。

 となると、感染を防止する生活が当たり前の生活になってしまう。つまり、人との接触はなるべく避けて、マスク生活ということだ。例えば飲み会や外食、ライブ、満員電車など人の集まる閉鎖空間は避けるようになり、人々の生活や価値観は以前と大きく変わるだろう。また将来不安が続くので消費もすぐには戻らないだろう。治療薬・ワクチンが開発されれば状況は変わるかもしれないが。

 クルマの販売は「コロナ後」に今までにない不況が予想されていることから、急回復とはならないかもしれない。コロナ前までの世界の自動車販売台数は、中国市場の成長が大きいこともあり右肩上がりだった。クルマの需要は公共交通機関が少ない地域・国では、まだまだ衰えないということだ。しかし、需要があってもコロナ不況で人々の収入が減れば、購入することは難しいだろう。

 さて、日本の自動車市場だが、バブル崩壊までは、「クルマが必要でない人も多く買っていた」こともあり、国内自動車販売台数は1990年のバブル時のピークで777万台あった。それが2019年で約520万台となっている。約35%減だ。

 バブル崩壊後は、経済的な厳しさと先を見通せない不安とで、クルマが「必要でない人」はだんだんと買わなくなったと考えられる。カッコいいとか見栄をはれるとか、そういう自動車の機能以外のいわゆる「付加価値」を認めて購入する人が減っているということだ。

 今回の「コロナ後」には、それが日本だけでなく世界で起こるだろう。もともと欧米先進国では、「必要だから買う」方が多かったが、それがさらに加速すると思われる。つまり、購入するとしてもより安いクルマ、あるいは今のクルマを壊れるまでできるだけ乗るということだ。世界の町に古い車があふれそうだ。

 クルマが今まで以上に売れなくなるということは、各カーメーカーの生産設備はさらに余剰となり、商品開発から物流、販売まで影響が及ぶ。CASE以前に、各カーメーカーはその生き様(体質)を大きく変革させる必要に迫られてくる。それは、大幅な業務効率アップ(経費削減)の改革だ。

 「コロナ後」でも感染対策を続けなければならなくなると考えると、移動を必要としないテレワークがキーとなるだろう。テレワークにはコミュニケーションをする上で、さまざまな課題があるとしても、改善しながら進めていくことになるだろう。

 テレワークが当たり前になると、〝ニアショア〟あるいはサテライトオフィスを検討する企業が増え、距離・移動などという概念は大きく変化するだろう。つまり、職住近接のような考え方はナンセンスなものになるのだ。また、移動が少なくなるということは、JRなどの公共交通機関の利用者が減ることになり、これはこれで世の中が大きく変わる。一方「地方創生」は進むだろう。

 今までなかなか進まなかったものが、コロナをきっかけに進むとなると、皮肉というか世の中ってそういうものというか。

 「コロナ後」は極少ない「富裕層」「クルマ好き層」と本当に「必要な人」以外は中々クルマを買わなくなるだろう。つまり「クルマが必要」という訳でなく、バブルの頃のようにクルマというモノが欲しいというエモーショナルな価値観の人達がクルマを買うことは少なくなるということだ。

 となると、「富裕層」「クルマ好き層」は全体からすると少なく量産メーカーのターゲットにならないので、「必要な人」がターゲットとなり、そのキーはロジカルな価値観で「安い購入価格・維持費(ダウンサイジング)」「高い耐久品質」となると考えられる。

 それは、日本では「軽自動車」カテゴリーということになるだろう。

 普通車や小型車に乗っていたユーザーからすると、軽自動車は馬力を稼ぐためにエンジンは高回転になりウルサイし、衝突性能は不安で乗り心地も軽い、黄色ナンバーはあまりにも差別的だ。現行の軽自動車では乗り替えるハードルは高いと思われる。

 逆に、地方の高齢者の足と考えると、1人乗り+買い物に持つ程度でよく、当然、高速性能も要らないので、今のサイズは大きく品質や性能は過剰だ。

 しかし、日本の道路や駐車場等のインフラが狭いこと、信号が多くゴーストップが多いことなどを考えると軽自動車のサイズと性能はぴったりだ。

 カーメーカー側からみると軽自動車はグローバルに販売出来ず、日本でしか償却できない。せめて排気量が1㍑になれば、インドなどの大市場と共用化できる。

 また政府からみると軽自動車からの税収入は少ないのに販売比率は上がっていて、何とか税収を上げたい。軽自動車比率が上がった後の2016年、「安すぎる」という批判もあったらしいが軽自動車税は7200円から1万800円に引き上げられている。軽自動車がさらに増えるということは、ユーザー、メーカー、政府に、さまざまなストレスが出てくる。

 これらを解決して、コロナ後の自動車販売の落ち込みを最小限にする方策を考えたいと思う。

 

 

〈車笛〉連載「コロナ後の自動車産業」〈下〉繁 浩太郎 

 

-1 自動車の税制と販売台数イメージ

 

 

 上の図から分かるように、現状は軽に偏ったマーケット構造になっており、今回の提案で、洋梨形の自然なマーケットの形を狙う。  コロナ以前からの、市場の二極化や高齢化社会化などで小さなクルマが増えるトレンドを捉え、またコロナ後の大きな販売ダウンを避ける意味で、行き過ぎた軽恩典でガラパゴス化した軽自動車領域改革と世界的に多く販売されている1㍑以下のAカテゴリーを持ち上げることを考えた。  これにより、ユーザー、自動車産業、国と3者のハッピーが期待できる。

 

 

-2 提案サイズと排気量

 

 新型コロナウイルスによる世界的な経済打撃は大きく、その回復には時間がかかると言われている。自動車産業は国の基幹産業で、その回復がないと日本経済全体に及ぼす影響は大きい。そこで、コロナ後に自動車販売が活気づく施策を提案したい。政府もカーメーカーもユーザーも3者がハッピーになる施策提案だ。

 経済が厳しい方向に変化した中でクルマを販売していくには、ユーザーの価値観変化を捉えて商品や販売方法も変化していく必要があることは言うまでもない。不況下での多くのユーザーの価値観は、安価で維持費も安く、過剰な装備や性能は不要ということになるだろう。当然、ダウンサイジングの流れも起こりうる。

 つまり、ユーザーが「これがいい」と感じる「魅力商品」でなく、「これならいい」という「納得商品」方向で、より機能的な「ミニマル、シンプル」「必要にして十分」で「安価」と感じられるような商品だ。

 そうなると、施策の主役は軽自動車ということになる。現在の軽自動車よりも、もっと社会やユーザー、自動車産業を見直した形で提案したい。 全体の自動車販売台数が減少している中で軽自動車の販売比率は高く推移しているので、当然、政府の税収は減っているはずだ。しかし、地方で公共交通機関の少ない地域の人々や高齢者などの足となっている現状を考えると軽自動車の税制恩典は簡単にやめるわけにはいかない。また、メーカーにとっても恩典の廃止は即販売台数減に直結し、コストアップ→売価アップ→そして台数減という悪循環でカーメーカーだけでなくユーザーも困ることになる。

 「恩典享受型」ユーザー

 軽自動車の1万800円という税金は小型車の半額以下で恩典と言えるものだが、それは多くのダウンサイザーや一般のユーザーにとっては「有難過ぎる恩典」と言えるかもしれない。その証拠に、自動車販売における軽自動車比率は4割に迫っている。「有難過ぎる恩典」は自由競争でなくなり、自動車マーケットに歪をもたらす。

 事実、背(車高)を高くし室内を広く取った「軽のミニバン」が誕生し、その価格は小型車を超える200万円以上のものも少なくない。

 「恩典必要型」ユーザーA

 公共交通機関の不便な地域で暮らしていて、買い物や通勤など生活の足代わりとして一家で数台のクルマを維持するようなユーザーにとっては、恩典の意味はある。これらのユーザーの使い方では、長距離移動や高速道路を走るよりも「ちょい乗り」が多い。つまり、安い維持費で街乗りに特化したクルマで事足りる。このユーザーにとって軽自動車の機能性能は過剰ではないか。

 「恩典必要型」ユーザーB

 さらに、公共交通機関がない山村などで、歩くのが辛い高齢者などのユーザーにとっては、ほんの数キロ雨風をしのげて移動できる機能があればいいのだが、現状は機能・性能が過剰な軽自動車を買わざるを得ない。電動カートのようなモノでも良さそうだが、大量生産出来ないためコストが高く、また安全性に注意が必要だ。小型電気自動車はさらに高価になり、充電も意外と面倒だ。償却しきった軽自動車をうまく使うほうが車両価格は抑えられそうだし、高齢者にとっては何といっても慣れ親しんだクルマに限る。

 日本の道路や駐車場は狭く、街中は信号だらけ(ゴーストップが多い)、高速道路でも一部を除き最高速度は100㌔㍍/時で、こういう交通インフラに軽自動車は合っていると言える。また、使い勝手が良く恩典のある軽自動車と「フィット」クラスの間のクルマは成立しにくい。(事実、660cc~1㍑のクルマはほとんど無い)

 世界的には、この軽とフィットクラスの間の商品は「Aカテゴリー」として大きなボリュームとなっている。日本でも「Aカテゴリー」の販売が増えれば、カーメーカーの投資効率は良くなるだろう。

 以上のような現状認識を基に、最後にユーザー、メーカー、国(税徴収)の3者が全てハッピーになる改革案を提案したい。

 「恩典必要型」ユーザーBにとっては、旧規格程度の小さな軽自動車でもよく、車両を小さくすれば運転はしやすくなり、軽くもなり、燃費も良くなる。ユーザーにとって過剰な機能性能も省けばいい。結果、価格も今の軽自動車より安くなるだろう。税金は9千円程度で良いのではないか。これを軽自動車Bカテゴリーとする。

 「恩典必要型」ユーザーAには、現状の軽自動車を残すとしても、現状の行き過ぎた恩典を考え、税金は少し上げ現状1万800円を1万2500円としたい。これを軽自動車Aカテゴリーとする。

 このA/Bカテゴリーは、カーメーカーの負担を軽減するために、現状の軽自動車の生産設備や設計仕様をできるだけ使えるようにする。また、いわゆるAカテ車の税金を下げ販売量を増やす(1㍑以下は2万5千円を2万円程度)。ターゲットユーザーは、先の「恩典享受型」ユーザーだ。

 これにより、国の税収は軽自動車のほぼ倍の2万円のユーザーが増えることと、軽自動車の数は減るが1万2500円で、9千円のユーザーBは少ないので、全体として増収が見込めるはずだ(政府のハッピー)。

 カーメーカーにとっては、軽自動車の販売台数は落ちるが、その分、グローバルに対応できるAカテゴリーのクルマを国内販売できるメリットが大きい(カーメーカーのハッピー)。

 まとめると、

 ①1㍑以下の税金を2万円程度とし、グローバルAカテゴリー(スモールカー)のイメージで販売増を図る。

 ②660cc以下の現行軽自動車イメージで、税金を1万800円から、1万2500円程度に上げ、行き過ぎた恩典を平準化。軽自動車Aカテゴリー

 ③軽サイズを旧規格程度に小さくし、税金は9千円程度とし、「恩典必要型」のユーザーを擁護する。軽自動車Bカテゴリー

 これにより、もともとの恩典が必要なユーザーを守りながら、経済打撃からくるダウンサイザーなどを受け入れ、総販売台数は増え、税収増、メーカーの台数増(共用化)という3者ハッピー(三方良し)で、コロナ後に自動車販売が活気づく提案だ。

 

 

 


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