湖の子守唄

琵琶湖・湖北での生活、四季おりおりの
風景の移り変わり、旅先でのふれ逢いなど、
つれづれなるままに、語りたい。

恋文

2010年09月02日 | 詩歌・歳時記
あなたに初めてお逢いした時、衝撃のあまり、息は詰まり身動きさえできず、
ただ呆然と見詰めるだけでした。あれから20年の歳月が流れましたが、
あなたを忘れたことはないのです。

高月、渡岸寺・国宝十一面観世音菩薩。



お体の割に、大きすぎる頭上の化仏たち、下方へ垂らした右手の異常な長さ。
アンバランスでありながら、絶妙な安定感で微笑されている、あなたを見つめて、
無神論者の私の両の掌が、ごく自然に合わされていました。



それからというもの、月に一度はあなたに逢いに行きましたね。
わずかにひねった細い腰の官能美、崇高な表情、うねるように流れる天衣、
すべてが美しく、見惚れてはため息つく、そんな日々を重ねました。

戦国時代、燃える本堂から救いだされ、地面深く避難されたとか。
今では立派な収納庫のなかに、緊張と安寧のオーラを湛えて直立されておられる。
触れる位置に在りながら、決してふれる事はできない、その気高さ。

あなたのみ背中を上からゆっくりと、見つめゆくうち、
聴こえてくる、潮騒の響き。宇宙の煌めき。
あなたが、この湖北の地におられると感じるだけで、ささやかな誇りと、
安心感に包まれます。

渡岸寺・十一面観音、永遠なれ。