湖の子守唄

琵琶湖・湖北での生活、四季おりおりの
風景の移り変わり、旅先でのふれ逢いなど、
つれづれなるままに、語りたい。

もうひとつの恋文

2010年09月10日 | 詩歌・歳時記
あなたをけして忘れた訳ではないのです。
むしろ、なにかにつけ、あなたのあの慈愛に満ちた微笑を思い浮かべ、暮らしてきたのです。

先に、渡岸寺のあのお方を取り上げたのは、国宝でもあることですし、
あなたもそんな事にこだわりを持たれるお人ではありませんし。
石道寺(しゃくどうじ)・十一面観音。

石道(いしみち)の集落はなだらかな上り坂。家々を巡って、小川の水が心地よく流れる。
坂道を登り切った高台から谷川渡って、小さなみ堂にあなたを訪ねる。
わずかにはね開けた蔀戸から、やわらかい日差しがこぼれている。
古めかしく重厚なお厨子の重い扉が開かれて、あなたはいつも変わらず微笑んでおられる。

井上靖が「星と祭り」のなかで、村の娘さんの素朴な面影を宿している、と表現したように、
まあるいお顔に、優しい眼差しを浮かべ、ほのかに紅をさして、
裳裾に残る朱の古色が、その可憐さを詠っていますね。

渡岸寺のあのお方のまえで、緊張し、高揚した心を、優しく揉みほぐしてくださる、
潤いにみちたお姿ですね。
渡岸寺のあのお方は、寸毫の隙もない完璧な姿態を誇っておられる。
それに引き換え、あなたにはあと鑿ひと彫りをのこした、余裕がありますね。
それ故、心の安息を戴けるのです。あなたが好きな所以ですよ。

誰もいないほの暗いみ堂に、ほっこりとなるまで柱に背を預け、胡座をかいて、
あなたと過ごす至福なひととき。
湖北の地にあなたがおられると思うだけで、胸に温かいものが満ちてくるのです。

石道寺・十一面観音菩薩、安らかに。

あなたの 面影が 携帯からブログに 飛ばせますように。
ちゃんと、飛んできた。
不思議です。
あなたは、もっと
かわゆいお方です。