残雪の湖北の山々を背景に、野の梅もちらほらと咲き始めたこの日頃、
いまだ寒い風に向かって山並みを見つめる時、思わず口ずさむ昔の歌謡曲がある。
♪雪割草にくちづけて はるかな山を見る少女
一人ぽっちは淋しいけれど ほらほらすぐに花咲く春が
青い青いあの尾根に ほらほら君の瞳にも♪
45年も前にヒットした安達明の歌「春を待つ少女」である。
詩:西沢爽、曲:遠藤実、64.12 日本コロムビア。¥300。
伸びやかな高音が心地よく、たたみかけるリズム感が沸き立つようで、早春のマイ・ソングである。
その他にも「女学生」「潮風を待つ少女」など多数のヒット曲を持つ、
ご三家に次ぐアイドル・スターであった。
この頃になると、蕗の薹を採りに行くのが、毎年の恒例だ。
家の裏手に名神高速道が走ってい、その土手に淡いみどり色の顔を覗かせるのである。
以前は、次にわらび・ゼンマイが生えてきて、5月になる頃はタラの芽が採れたものだった。
山菜の宝庫だったのだが、国土交通省の(整備・美化事業)によって、植物分布が変わってしまって、
今は蕗の薹のみが健在である。
そして、何故か時を重ねて持病の痛風が出るのであるが、今年は植物全般が遅いお蔭で、セーフだった。
採ってきた蕗の薹の半分を、東京の従妹に送り、残りの半分を天ぷらに、あとはふき味噌にして、
早春のほろ苦さと明るい季節の到来の歓びを味わうのである。
海彦のカキフライ食い
山彦のふきのとう食う
春浅かれど
これからは1週間ごとに、北へ北へと野山に歩を伸ばすのである。
福井県との県境近くまで、1ヶ月は楽しめる訳だ。
この時期を狙って、大阪の弟が帰ってくる。自分の寝床が気になるのだ。
雪が多い年は、ことのほか蕗の薹の味わいが深いようだ。
厳しく、長い冬を耐え忍び、乗り越えてきた人間たちへの、大自然からの賜物かも知れない。