湖の子守唄

琵琶湖・湖北での生活、四季おりおりの
風景の移り変わり、旅先でのふれ逢いなど、
つれづれなるままに、語りたい。

旅立ちの衣 ①

2012年02月17日 | 詩歌・歳時記

末期ガンで入院していた母が、三食が二食になり、もう食べたくないと言ってから、

2日目のお昼すぎ、「息苦しいから、背中をさすって・・・」と言われ、腰の痛みに耐えながら、

母の吐く息、吸う息にあわせて、やせ細った背中をゆっくりとさすっていた。

              

30分ほどして、下にした腰が痛いから、身体の向きを変えて、と言われ・・・・大汗かいて

向きを変えたのだった。 肩先の細さに比べ、腰、足はリンパ液が下がってきて、パンパンに

ふくれ、浮腫んでいるのだった。

  

顔が向いている方に、時計とティッシュを置いた。 「大きいボタン・・・」と母が指摘する。

あぁ、ごめん。母にとっては命の綱の、ナースへのコール・ボタンを顔の向きの方へ置く。

それほど意識はしっかりとしていたのである。

けれど、小さな縦型のボタンを押す力は母にはもうすでになかった。大き目のスピーカーのついた

コール・ボタンを目にして、母は安心したようだ。

         あどけなく口を開きて

         水せがむ

         母よゆっくり時よ歩めよ

                    

そして、また背中をなぜていたのだが、息するたびに上下した母の肩が、突然止まった。

あっけない、死に際であった。

私の手の平に残る、母の背中のぬくもりを、けして忘れない。

ガンがあれほど転移したにも関わらず、痛みはなかった。それが救いでもあります。

           

          母逝くや 春立ちてより 三日のち

          雪嶺や あの世とやらへ 逝きし母

          母逝くや 夢の舞台の ごとき雪

          風花や 母のみたまの 舞ふごとく