死んだ母に、納棺の前に死に衣装を着せた。
あらかじめ母が用意をしていたのだった。 畳紙に包まれた、醒ヶ井の湧き水のような
清げな水色の死に衣装であった。 母の文字で「旅立ちの衣」と大書してあり、
その下には 「みなさま、ありがとうございました」 と書かれてあった。
風花や母のみたまの舞ふごとく
そして自分が選んだ、一葉の写真。 喪服の細工はしないで、普段着のままの写真で・・・
というのが母の願いだった。
母逝きぬ手縫いの浴衣身にまとひ
葬儀が終わり、火葬場へ行く。天気予報は大雪注意報だった。 まして火葬場は雪の深い
北方なのだ。 けれども、粉雪がちらほらと詩歌を誘うように舞っているだけであった。
観音のごとき死に顔
たらちねの母に寄り添う
如月の雨
散歩に行って、帰ってくると、空き缶やポイ捨てのごみを老人車に拾い集めてくる母であった。
そんな母の積み重ねた徳と、私たちへの変わらぬ愛情が、よい天気をもたらしてくれたと、
信じています。 天のずっと上で、いつも私たちを見守ってくれている、母なのです。
おだやかな母の死顔や針供養
いみじくも、葬儀の日は和裁に一生を捧げた母にふさわしい「針供養」の日でした。
肩先の蒲団は二度と上下せぬ
母へ訪のへ
永久のやすらぎ
わた雪や母はお骨となりたもふ
雪深し母を思ひて米をとぐ
長浜・盆梅