湖の子守唄

琵琶湖・湖北での生活、四季おりおりの
風景の移り変わり、旅先でのふれ逢いなど、
つれづれなるままに、語りたい。

山門の若武者

2010年09月18日 | 詩歌・歳時記

湖北の最北、福井との県境近くに山門の集落がある。
茅葺きの家も幾つかは混じり、軒先の深い民家が建ち並び、由緒正しき田園風景がひろがる。

その一郭に善隆寺があり、境内に建っている収蔵庫を「和倉堂」と呼ぶ。
大きな仏頭が置かれ、右側に毅然と佇つのが「和倉の」十一面観世音菩薩である。
ややこぶりながらも、全体的にキリッと引き締まった佇まいは、
やや浅い時代の頃の若武者をおもわせる。

こころなしか眉をあげ、気品にあふれた、引き締まった面差しは、
若き公達と言った方が適切であろうか。何処やらに、黄金造りの太刀を秘め持つ風情である。
それでいて、高貴な光に柔らかく包まれ、ほの暗いみ堂に、毅然と立ち続けておられる。

立地的な関係から、あまり人の口の端にのぼらないおひとではあるが、
知るひとぞ知る、端麗な観音である。

いったいに湖北地方には、浄土真宗のお寺が多いのだが、
本尊の阿弥陀如来と並び、観音菩薩を祀っている寺が、少なからずある。
これは本来、おかしな事になる訳であるが、まぁ、何ともおおらかなことだ。

もともと密教系の寺院だったのが、
京から越後へ流された親鸞聖人が、湖北を歩かれ布教されたのであろう。
その後、多くの寺が真宗に改宗したさい、観音はそのまま留め置かれたのだろう。
他宗では考えられない事だ。

そもそも親鸞さんは仏像なんぞ眼中にはないおひとである。
ただ一心に、南無阿弥陀仏の六字称号を唱えられるのみだ。
その広大なみ心が湖北に観音像が多く残った所以であろう。
この、素朴なおおらかさが湖北地方の山河、人心の特徴なのかも知れない。


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