農家の倅でもない鉄の街の小学生がひよこを育てることは難しく、夏祭りの夜店で買った小さな命は何度か哀しい結末を迎えました。
その度に母は「可哀想だからもう買ってきちゃダメ!」と優しく諭してくれるのですが、次の祭りがくると懲りずにひよこを買ってくる息子をあきらめ顔で迎えてくれました。
さて、その三羽のひよこはそれまでの子達とは違い元気で、すくすくと育ってくれました。夏とはいえ、日によっては朝晩にストーブが必要な北の街。安普請の実家にも関わらず、命を落とすことなく育ってくれたのは、その年が暖かったからなのだと思います。
夜店でひよこ売りのオヤジから「暖かくしてやっな!」と言われるくらいですから、産まれて間もない子達に北の寒さは大敵なんでしょう。
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黄色いひよこ。
身体が大きくなるにつれて羽毛も黄色から白へと変わります。ピヨピヨと可愛い鳴き声もギーギーと声変わりをします。
ひよことニワトリの間の佇まい。人で言えば中学生になった感じでしょうか。
私の父は貨物船の船乗りでしたから、一度船が出ると平気で一カ月くらいは家を空ける男でした。
子煩悩な父はたまにしか会えない息子の成長、そして息子が大切にしているひよこが徐々に大きくなる姿を見るのが大好きでした。器用な父は外にニワトリ小屋を作ってくれました。
さて、三羽のひよこが大きくなり、全部にトサカが出始めてきました。
そう、全部男の子だったんですね。
そりゃあそうです。
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女の子は卵を産ませるために選ばれて夜店に流れてくることはないのですから。
卵を産まないことを知ってガッカリしたのですが、猛々しく「こけこっこー!」と鳴く子達を誇らしく思っていました。
さて、それから何ヶ月か経ったある日、学校から帰り家に入る前に小屋を覗くと、ニワトリの姿が見えません。
どうしたことか⁈
玄関を開けると船から降りた父が帰ってきていたのです。
続く
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/41/7e/3f7007e84af307113ad59e796440fa05.jpg?1597964324)
写真はGoogleより転借
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