山口さんは嘘が苦手です。
何故なら人から聞いたことも自分が言ったこともすぐ忘れてしまい、辻褄が合わなくなってしまうのです。
そして、変なところに見栄を張りたがる性格のために、吐く嘘も子供染みたツッコミどころ満載の内容です。
また、大胆な行動の割りにせこいので、嘘もどうしてもせこくなりがちです。
ある夏に山口さんは家族でパリに出かけました。山口さんほどパリに似合わない人はいないと皆陰でひそひそと話しています。
また、山口さんの休暇中は仕事が捗っていいねと全社員が不在を喜んでいます。
その休暇中に私のデスクの電話が鳴り、オペレーターが山口さんからのコレクトコールとの旨を伝え、応じるかどうかを確認してきました。コレクトコールなんて懐かしいな。
迷わず私「今、忙しいから応じない!」と暇だったのですが、電話を切りました。
どうせ何の用もないし、彼が係わっている案件もないので報告することもないのですから。
さて、電話を切ってから空気を読まない山口さんはまたコレクトコールをしてきました。もう面倒だから出た方がよさそうです。
「あ、朴ちゃん?山口ですぅ。どうもどうも!」
「あ、朴です。何か急用でも?」
「いやいや、コレクトコール悪いね。」
「いえ別に。会社のお金ですから。」
「いやいや、携帯からかけようと思ったんだけどね、掛け方が分からなくてさ。」
「あれ?山口さん携帯は絶対持たないって言ってませんでした?」
「いやいや、娘の携帯なんだけどね。ほら、国際電話高いじゃない。で、びっくりしたぞ!
フランスの公衆電話からかけようとしたら、日本のテレフォンカード使えないし。」
「そりゃそうですよ。だったらフランスのテレフォンカード買えばいいじゃないですか。」
「あ、いやいや、どう買っていいかわからないし、高いし!だからホテルからコレクトコールっちゅうワケです。」
「まあいいですけど、用件はなんでしょう?」
「特に用件はないんだけど、家内がかけろというもんでね。で、皆んなしっかりやってる?」
「山口さん、昨日から会社休みだから、あまり変わらずですよー。すみません、私出かけるんで切ってもいいですか?」
「いやいや朴ちゃん。私の席ちゃんとある? 誰か私の悪口言ってない?」
「山口さん!席はちゃんとありますし、悪口はないですけど、私に聞こえないだけかも知れません。じゃ、切りますよ」
「いやいや、朴ちゃん。じゃあ私の不在中に緊急な用件があったら電話して下さい。」
「分かりました。じゃ、ホテルの電話番号を。あれ?あれあれ?」
山口さん相変わらず人の話を聞かずに一方的に喋りまくり、勝手に電話を切るのでした。
まあ、そんな感じじゃないと生き延びていけないんだよなあ。
ウチのは愛すべき要素はゼロですが。