腫瘍内科医一家のニューヨーク滞在記

ニューヨーク研究留学中での出来事を感想を交えてメモ代わりにつづります。

現在の貴族?

2010年02月02日 12時57分58秒 | 日記
 1月入って職場の上司に連れられ、自分の研究する分野の世界的な大御所の先生を訪問した。
 その老紳士は、ある20代のがん患者さんのこれまでの治療歴について語り始めた。
 この患者さんは標準治療にはすでに効果がなくなっている。

 語り口はこの上なく上品で穏やかであるが、年齢を全く感じさせない科学への知的好奇心、情熱に圧倒された。そして、自分にこの患者さんの血液検体が渡された。
 最後に「この患者さんの次の治療は何がいいと思うか?」と問われた。

 上司も「自分も最初は同じように患者さんの検体を渡されたんだ。とにかく、この○○先生のVIP患者さんの解析を最優先するように。」と言われた。

 そう、またもや、自分は試されているようである。
 さすがに、今度は緊張感が違う。
 
 通常、こちらの国では上司であろうと部下であろうと友人であろうと愛称(ファーストネームかそれを省略したもの)で呼びあう。しかし、この偉大な老紳士は、尊敬の念を込めて皆から「Dr.○○」と呼ばれる特別なカリスマをもった人物である。
自分はこのような人物に初めてであった。言葉づかい、振る舞いからして品格にあふれている。そして、Scienceが「life work」でなく「life」そのものに見える。終身雇用権と巨大なスポンサーがついて、時間もお金も気にする必要がなく、自分が大切だと思い興味のある研究のことを考えながら毎日過ごす。西洋の学問の成り立ちが、暇を持て余した貴族の楽しみであったように・・・。このような人こそが、現代の貴族なのではないか。
 自分とは全く別次元の世界を見て、素直にとても好奇心がそそられる。

 今日はじめて気づいたことであるが、なぜだかよくわからないが、この大御所は僕のことをいつも「Dr.+last name」で呼んでくれる。なんだか、謎かけされているようで釈然としない。

 1月はすこし緊張して重苦しい一カ月であった。そのためかどうかわからないが、昨日から奥歯が痛んで仕方がない。
 この患者さんの解析が今週でひとまず終了予定である。