https://news.yahoo.co.jp/byline/satoutomoko/20200502-00176521/
「全ての生き物には役割がある」と断言する、有機野菜農家の吉田俊道さん(『菌ちゃんふぁーむ』代表。1959年長崎市生まれ)。九州大学農学部を卒業し、同大学大学院修士課程修了後、長崎県庁の農業改良普及員を経て、1996年、有機野菜農家へ新規参入。しかし当初は失敗の連続。
「どうしても野菜に虫が来る。でもある時に、虫の来ない野菜を見つけた。なぜ?」
その答えを見つけた時に、自然界の全ては循環していることに気付けたという。
私たちが健康であるために必要なこととは――。連載3回シリーズの第1回。
略
―― では、吉田さんの中で常識が覆る発見があったわけですね。
「そうなんです。だって、ブロッコリーは、毎日取っても取っても虫がいるわけ。そして、やっと収穫してお湯の中に入れたらそのブロッコリーの蕾からまた小さな虫が出るわけ。一生懸命無農薬でやっていてね。そんな中でたまたま虫の来ない場所があったの。もしかしたら虫が来ないということはおいしくて元気な野菜だから虫が来ないんだろうかと思って、いつも虫が食うブロッコリーと、虫が来ないところのブロッコリーとを食べてみたんですよ」
―― そうしたら?
「虫の来るほうのブロッコリーは後味がピリピリくるの、まずいの。虫の来ないほうは本当に後味が良かったんですよ。現場で、自分でそれを体験してしまったからはっきり違うということが分かったんですよ。『虫はまずいほうに来てるじゃん』と。本当に感動しました。涙が出ましたよ」
―― わあー、それは感動しますね。
「だってほら、無理やり県職員を辞めて、反対されて、それでもなかなかうまくいかない中での……。ああ、おいしい野菜には虫が来ないじゃん、ということを、実際に体験したから、やっと希望が見えたわけです。ということは、もっとその虫の来ないような土ができればいいんじゃないかと。そうしたら、無農薬がいいんじゃなくて、結果的においしい野菜をつくったら、農薬も要らないと。そうしたら一石二鳥じゃないですか」
―― 農薬を使わないということじゃなくて、いい土をつくればいいということだったんですね。
「そう、土が出来上がっておいしい野菜ができる、健康な野菜ができたら、結果的に虫も病気もなくなるということです」
―― そこで、その「土がいい」というのは、どうやって分かったんですか。
「一つは、耕作放棄地で分かったんです。有機物がたっぷりあって、自然の中で、というのは、腐敗がほとんどない。うまく発酵している有用微生物がいっぱいいる土がいいんだと。もう一つは、同じ畑で虫が来るところと来ないところがあって、虫が来るのは未熟な堆肥を入れたところなんです。例えば、たまたま近くで買った堆肥を入れたところだけが虫が来る。他には、同じ畑で同じように土作りをしても、排水が悪いところだけが虫が来たんです」
―― つまり、元気な土というのは、微生物が多いということですか。
「そうです。まさに微生物だらけで、虫がほとんどいない土です。虫は微生物を補完する生き物なんです。地球上の死体をうまく次の命に変えるために、微生物がいるわけです。微生物はいわゆる、宮崎駿監督作品の『もののけ姫』のシシ神と一緒で、死の局面に現れて生を作る生き物です」
全部何か役割があって生きている
―― なるほど。微生物は、分解者ですよね。
「そうそう。その微生物では分解が間に合わないときに、虫が来るんです。そうすると、スムーズに分解されるんです」
―― そこに農薬をかけることによって、その分解者である微生物や虫がいなくなっちゃうから、もう循環しなくなっているということですよね?
「そうです。そしてもう一つ私が言いたいのは、いい土とは何かというと、虫や菌がいっぱいいるというよりも、菌がいっぱいいる土なんです。菌が多いと、虫は逆に少なくなります。ここで言っている菌とは、微生物のことです」
―― 虫の出番がなくなる。
「そうそう。菌が十分にいると、虫は必要なくなるんです。菌では分解がうまくいかない時に、虫がそれを食べるチャンスが生まれるわけ」
―― なるほど、そういうことなんですね。
「だから、うちの畑にはミミズもあまりいないし、害虫も、いわゆる益虫といわれているものも含めて、あまりいなくなります。だから、モグラも当然、少なくなります。ただ、土が悪くなると、ミミズが発生してモグラが発生します」
―― でも、それはつなげる、良い土に返すためなんですよね?
「そうそう、土を良くするため」
殺す必要のあるものなんか何もない
―― では、やっぱり全ての生き物は、役割があるということですよね。
「『風の谷のナウシカ』でいうと、腐海の蟲(むし)たちというでしょう。腐海の世界まで持っていくと虫が出てきますけれども、腐海の世界に行く前に循環する。それが発酵なんです。それが無理なら虫の出番になる」
―― そう思うと、ありがたいですね。
「そう、虫も菌もモグラも敵じゃなかった。よい土をつくってくれていた。全部何か役割があって生きているというのが、有機農業の世界ですから。だから、今までモグラを殺せ、虫を殺せ、菌を殺せとやってきたけれども、殺す必要のあるものなんか、何もなかったんです。というよりも、いないといけなかったんです。モグラも必要だったし、菌も考えてみたら必要なんです。だって、本当においしい野菜には虫が来ない、菌が来ないとすれば、どれを人間が食べていいかということを、結果的に教えてくれているようなものでしょう」
―― そうですね。それが、実際、有機農業をやってみて、わかったんですね。
「そうなんです」