半数は自宅のお風呂で 「子どもは静かに溺れる」
溺水による死亡の場所に関しては、4歳までは浴槽内が多く、5歳以降になると河川など自然水域の割合が増えていきます。
このように年齢によって溺水事故の様相は異なりますが、2017年の14歳以下の溺水による死亡48件のうち、24件が浴槽です。溺水と言えば海や川のイメージかもしれませんが、半数は自宅のお風呂で起きていることも知っておいてほしいと思います。
さて、一昨年ですが、溺水の事例を調べていたところ、米国の水難救助の専門家の間で「人が溺れる時は声も出さず、水面をたたくわけでもなく静かに沈む」ことが知られており、米国のFrancesco Pia博士らが、これを「本能的溺水反応(instinctive drowning response)」と呼称して啓発していることを知りました。略
本能的溺水反応とは
この現象を最初に唱えたFrancesco Pia博士は、自身がライフセーバーの仕事をしていた1970年代、自らの救助活動を振り返るために、溺れている海水浴客を仲間が救助する一連の様子を映像に記録していました。
その結果、人は溺れそうになって必死になっていても、映画で見かけるように、手や腕を振って助けを求める余裕もなく、呼吸に精一杯で声を出して助けを求めることもできない、また特に乳幼児は自分が溺れていることを認識できずに速やかに沈む傾向があることに気づき、その一連の動作を本能的溺水反応と名付けました。
この現象は次第に米国の沿岸警備隊など水難救助の専門家の間で知られるようになり、米国陸軍のHPでも紹介されています。
したがって、この現象は子どもだけでなく、大人でも同じ現象なのです。ただ子どもは自分に何が起きているか分からないために、特に「静かに早く溺れる」のかもしれません。略
お風呂で首浮き輪を使ってはいけない
これ以外には「赤ちゃん用の浮輪(首浮き輪や足入れ浮き輪)を使わない」も挙げられます。
赤ちゃん用浮き輪は本来ベビープレスイミング用品としてプールで使うものですが、親が便利な育児グッズとしてお風呂で使っているケースがあります。
しかし、これも、保護者の洗髪の間に赤ちゃんが浮き輪から外れ、溺れてしまったり、お湯に長時間首から下が浸かることで迷走神経反射を起こし、意識障害で搬送される事故が実際に起きています。
小児科学会も注意喚起していますが、お風呂で使うと事故の原因になるため使ってはいけません。
ちなみにこのグッズはお風呂以外でも、川や海などでは流れがあるため、体を掴んでいても首に水圧がかかり危険なことも知っておいてください。野外でも使わないでくださいね。
お風呂以外では、川や海などの自然水域に入る際はライフジャケットの装着が有効です 略
溺れた場合にどうすればよいか 心肺蘇生の重要性
5分以上溺れてしまうと脳に後遺症を残す可能性があるといわれています。まさに時間との勝負です。
溺水で意識が悪かったり呼吸が止まったりしている子どもには、発見者が現場で速やかに心肺蘇生法を開始することが大切です。つまり事故の際近くにいる可能性の高い保護者や教職員への小児心肺蘇生法の普及が極めて重要です。
心肺蘇生を普及するプロジェクトは全国で広がり始めています。学校教育現場では、例えばさいたま市では、学校で運動直後に亡くなった小学校6年生の事例を機に作られたASUKAモデルという教員研修があります。
保護者向けには、各消防本部や消防署などが行っている救命講習会があります。ぜひお近くの消防本部や消防署の講習会に参加してみましょう。
なお、救命講習会に行く時間がないという方向けに消防庁ではe-ラーニングで応急手当の基本知識が学べる「一般市民向け 応急手当web講習」を準備しています。PCやスマホ、タブレットからアクセスできます。略
ちなみに、昔は溺れた場合、溺れた人の背中から抱きかかえ、両腕でお腹に手を回して圧迫させる(水を吐かせる)処置をすべきと言われたこともありましたが(ハイムリック法)、これはあくまで固形物に対する処置で、液体に対しては効果がありません。
むしろ誤嚥を引き起こすため危険ですし、何より先にお伝えしたような心肺蘇生の処置が遅れてしまうため、現在は推奨されていません。略