索引 『日蓮の手紙』
日本がかつてないほど大きな社会変動に直面した鎌倉時代。宗教界にも大きな革命が進行していました。
それまで貴族階級や知識階級の独占物だった仏教を庶民のもとへひきもどし、苦悩に沈む全ての人に救済をもたらそうとした宗教者が続々と登場。
その代表格の一人が日蓮(1222-1282)です。
法華経こそ末法の時代を救う最高の経典であることを確信した日蓮は、二度の流罪をはじめとする迫害にも屈せず「法華経の行者」としての生涯を貫きます。
法華経に基づき一人ひとりのいのちの絶対的平等性と尊厳性を根幹に据えた日蓮の教えは、その後の日本の文学や思想にも多大な影響を与え続けました。
2022年2月には生誕800年を迎え、新たに読み直しも始まっています。
そこで、番組では、日蓮の思想や人間像が最も端的に現れているとされる「手紙」にスポットを当て、
日蓮の思想の根幹やその現代的な意味について解き明かしていきます。
日蓮は、不幸にも、明治から昭和初期にかけて「国家主義」と結び付けられ、過激な国粋主義のイデオローグとしてのイメージを植え付けられました。
しかし、これは一面的な見方です。
弟子たちそれぞれの心に寄り添いながら、あるいは励まし、あるいは叱咤し、あるいは悲しみを共にする日蓮直筆の手紙を読むと、
知られざる、等身大の日蓮の姿が鮮烈に浮かびあがってきます。
宗教者としての覚悟、権力の横暴への冷徹なまなざし、苦悩にあえぐ人々への限りなき慈愛、職場や家族関係で生じた葛藤への細やかなアドバイス……。
日蓮の手紙を深く読み解いていくと、「苦悩をどう乗り越えていけばよいのか」「人間が一番に大切にしなければならないものとは何か」等々
、私達現代人の心を揺さぶる問いをつきつけられます。
仏教思想研究家の植木雅俊さんは、日蓮の手紙の最大の魅力は、「相手に応じて、文体、文章、表現を自在に変えながら、
徹底的にその人自身に寄り添うことを考え抜いている」ところだといいます。
日蓮