松前の街を後に、再び国道228号を走り始めました。
次の目的地は江差町の法華寺です。
すれ違う車も殆どない北国のひたすらな道を楽しみながら、江差を目指しました。
松前から江差までの64㎞ほどの距離をはしり、昼少し前に江差町に到着しましました。
ナビに導かれ、法華寺の駐車場に車を止め、ツバキを探して境内を見歩きました。
最初に目に付いたのがメタセコイアです。
木の下に「保護樹木指定標識 メタセコイア 推定樹齢52年 平成14年4月1日」と記されていました。
北海道で20年ほど暮らしましたが、メタセコイアを見た記憶がありません。
北海道にメタセコイアは育たないと思っていましたが、改めて調べてみると、1945年に中国で生きた化石として発見されたメタセコイアは、1950(昭和25)にカリフォルニア大学から100本の苗が日本に贈られ、3本が北海道大学に植えられたことが分かりました。
法華寺のメタセコイアが平成14(2002)年に樹齢52年であれば、日本に最初にメタセコイアが入った頃の木です。
予想外に、貴重な木に巡り合うことができました。
境内の中央に見事なクロマツが枝を広げていました。
このクロマツも江差町の保護樹木で、推定樹齢200年と記されています。
6年前に自転車で北海道を縦断した時、静内で見たアカマツを思い出しました。
クロマツやアカマツは北海道に自生せず、ツバキ同様に内地から持ち込まれた植物です。
そして今回の旅は、そのようなツバキやマツの育成北限を、植物相の視点から探索するつもりです。
しかし、それにしてもツバキは何処にあるのでしょうか?
境内と外周を探し歩き、最後に寺の玄関を開けて「すみません、恐れ入ります」と声をかけました。
すると奥から坊守さん(住職の奥さん)らしき人が出てこられたので、「ツバキは何処でしょうか?」とお尋ねしました。
すると「ツバキは寺の中庭にあります」とのことなので、参観料を払って中庭を見せて頂くことにしました。
そしてこれが「法華寺の椿」です。
坊守さんのお話では、数年前の台風で幹が折れて、樹形が小さくなったそうです。
中庭の隅に「法華寺の欅、法華寺の椿 記念保護木」の説明が掲げられていました。
椿に関し、
「樹齢220年と推定されるツバキは江戸時代に町内の檀徒より寄贈されたもので、毎年12月にこぶし大の花を無数に咲かせ、寒ツバキとして愛され、ケヤキとともに、江差町の歴史に残る樹木として住民に親しまれています」
と記されていました。
記載が昭和48年3月ですから、2021年現在の推定樹齢は268年です。
ところで説明文のように、法華寺の椿が「寒ツバキ」ならば、カンツバキはサザンカに分類されますから、ヤブツバキとは樹形が異なります。
函館や松前のツバキ園芸種の樹齢推定に「法華寺の椿」のデータを用いましたが、それは一応の「目安」であることを、記しておきたいと思います。
坊守さんに、北海道のツバキを調べに東京から来たことを説明し、庭に降りて観察する許可を頂きました。
「法華寺の椿」は地際から4本程に分かれた枝を斜め横に伸ばし、株立ち状の姿を見せていました。
台風の被害で樹形が小さくなったそうですが、昭和48年の記念保護木指定時には樹高3ⅿだったそうです。
周囲を柵で囲まれていましたが、許可を頂いて柵の中に入り、根周を測定しました。
光量不足で手振れしていますが、1276㎜という結果が得られました。
周囲に「法華寺の椿」の実生が幾株か葉を茂らせていました。
ここで芽生えた実生ツバキが、数件の江差民家で花を咲かせるそうです。
「法華寺の椿」は毎年12月頃に一重の赤い花を咲かせ、5・6月頃に散り終えるそうです。
庭に掲げられた説明に「寒ツバキとして愛され」と記されますが、「寒ツバキ」という言葉は、一般的に「寒い時期から花を咲かせるツバキ」の意味と、サザンカの分類群としてのカンツバキやハルサザンカを指す場合があります。
「法華寺の椿」は前者の意味と判断しますが、もう一度花の咲く季節に訪ね来たいと思いました。
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