新聞の連載小説は,長い間読まなかったが,福岡伸一さんの新ドリトル物語『ドリトル先生 ガラパゴスを救う』は,毎回欠かさずに読んでいる。この小説に関する記事が,今日の朝日新聞26面に掲載されている。
この秀才生物学者は,「動的平衡論」を操って生命現象を解き明かし,その勢いでフェルメールの絵画の解説にまで健筆をふるっている。本業の生化学研究よりも啓蒙的な仕事に力を入れておられるようだ。この小説もその一つだろう。
ドリトル先生は,スズメが小耳にはさんできた話から,世界航海をするビーグル号がガラパゴス島に立ち寄ることを知って,その生態系が脅かされることに危機感を抱き,先回りしてその危機を回避しようと考える。そして洞窟に住むコウモリの情報から,希ガスの発生場所を知り,気球を作って,まだ運河が掘られていないパナマ地峡を越えて,ガラパゴス島に先回りしようと,スタビンス少年とともに,空の旅に出かける。
著者は,ビーグル号が航海する時期とドリトル先生の時代が,同じ19世紀前半であることに気づき,この小説を書くことを思い立ったという。このことを,福岡さんは,アップル社の創始者スティーブ・ジョブズの言葉を借りて”Connecting the dots”と表現している。関係ない二つのものを結び付けることは,人間だから可能であって,AIにはできないことだという。なるほどと思った。
小説の中で,福岡さんの該博な知識が発揮され,現代の科学理論が当時の背景と言葉でうまく脚色されていることに感心する。わたしは,ドリトル先生を読んだ時,動物をあれほど愛する先生がどうして,牛肉やベーコンを平気で食べるのかと疑問に思っていたが,福岡さんは食物連鎖の理論でその点も巧みにカバーしている。
ヒュー・ロフティング原作の『ドリトル先生航海記』の中に,チャールズ・ダーウィンの名前が出てくる。この二人の博物学者が,ガラパゴス島を舞台にどう切り結ぶのか楽しみである。