原田 マハ 『リボルバー』 幻冬舎 2,021年
原田マハの著書で最初に読んだのは,『楽園のカンバス』で,続いて『ジベルニーの食卓』だった。前者はアンリ・ルソー,後者はクロード・モネがそれぞれ主人公で,読みやすく,美術や絵画に関する知的好奇心を刺激してくれる,優れたエンタメ系の小説だった。
著者はキュレーターの資格を持ち,特に印象派や後期印象派についての造詣が深く,その後も原田マハの小説を追っかけることになった。数えてみたら,読んだ著書は15冊にのぼっていた。閨秀作家と呼ぶにはちょっと抵抗があるこの多作の女流作家の作品の中には,駄作としか言えないものもあるが,この本はなかなかの内容だと思う。
主人公はパリ在住の28歳の日本女性,高遠冴で,パリ大学で,ゴーギャンとゴッホとの関係をテーマにして修士の学位をとり,小さなオークション会社で働いている。ある日,画家を名乗るサラという女性が,オークションに出品して欲しいと,赤さびだらけのリボルバーを持ち込んでくる。聞けば,ゴッホを撃ち抜いたピストルであるという。そこから,その真偽を巡っての,冴とオークション会社スタッフとによる調査が始まる。
ミステリー仕立ての小説なので,詳しいことは書けないが,ゴッホとゴーギャンの関係に絡んで,美術史を根底から揺るがしかねない事実が示唆されるようになる。最後は小さなどんでん返しが待っているが,著者一流の蘊蓄とともに展開される話は飽きさせず,肩の凝らない緑陰読み物として,お勧めものである。
蝉
蝉の鳴き声を聴いた。蝉の羽化周期は,7年,11年,13年のように素数で,天敵の周期と重ならないようになっているという説がある。もっともらしいが,よく分からない。