なめとこ山の熊
久しぶりに宮沢賢治を読んだ。子供の時から馴れ親しんできた作家だが,農学の専攻を決めた時から,心の拠り所のようにして,折に触れ繰り返し読んだ。早世した敬愛する同級生が,宮沢賢治が好きで,作品を語り合うのが楽しかった。
数多い作品の中で特に好きなのが『なめとこ山の熊』で,今回もそれを真っ先に読んだ。10頁余りの短編である。
熊が「ごちゃごちゃいる」なめとこ山で,熊撃ちを生業にしている渕沢小十郎の話だ。小十郎は手向かってくる熊だけを撃つ。そして,「おお熊よ。俺はお前を撃ちたくなかった。家族を守るためにほかに仕様がない。これも因果だ。」と,熊に赦しを乞う。しかし,小十郎は熊を愛していて,熊も小十郎を好きである。両者の間には,対話すら生まれている。
小十郎は毛皮と熊の胆をもって町に行き,強欲な旦那に頭を下げて,二束三文で買ってもらう。この旦那を描く筆致に,そういった人間に対する賢治の憤怒が表現されている。
ある日,小十郎はそこはかとない予感とともに家を出る。前から狙っていた大きな熊と対峙するが,熊に殴り倒される,薄れていく意識の中で,小十郎は「おお,小十郎よ。俺はお前を殺したくなかった。」という熊の言葉を聞く。
厳寒のなめとこ山の頂で,煌々たる月の光に照らされながら,熊が輪になって座っている。その真ん中に,「まるで生きてるときのやうに冴え冴えして笑っているやうな」顔をした小十郎が,横たえられている。
最後のシーンを読むたびに,わたしは永遠の課題を賢治に負わされたような気持ちになる。
さつま芋畑
畑への行きかえりの途中にある,さつま芋畑だ。茨城県はさつま芋の生産量が,全国2位で,干し芋の9割が茨城産である。しかし,これだけの規模の芋畑にはめったにお目にかからない。収穫時に通りかかった時,形の良い芋を選んで格安で譲ってもらうのが楽しみである。