奇跡のシンフォニー(映画)
この映画のビデオを観るのは何回目か。視るたびに心が温まる。
2007年に公開されたハリウッド映画。音楽がつむぐおとぎ話である。
物語の始まりは,ニューヨークでのそれぞれの公演を終え,打ち上げを抜け出した男女の一夜の恋から始まる。
チェロ奏者のライラ・ノヴァチェクとロック歌手のルイス・コネリーは,ビルの屋上で偶然出会い,お互いに惹かれ合って一夜を共に過ごし,再会を約して別れる。
しかし,ライラのチェロ奏者としての成長を願う父親は二人の仲を裂き,ライラが身ごもった子供を死産と偽って,孤児院にあずけてしまう。
それから12年,孤児院で育ったエヴァン・テイラー,ライラ,ルイスそれぞれの物語が同時並行的に描かれる。
エヴァンは彼の心に聞こえてくる音に誘われ,まだ見ぬ両親を探して孤児院を飛び出し,ニューヨークにたどり着く。そして,路上でギターを弾く少年と知りあい,彼の住んでいるところについていく。そこは廃墟となった劇場で,マックスウェルという男が,孤児に路上で芸をさせて金を稼がせるたまり場だった。
たまたまエヴァンの奏でるギターを聴いたマックスウェルは,路上で演奏させるとともに,劇場演奏に売り込もうとする。その際,本名では孤児院に送り返されることを警戒して,オーガスト・ラッシュという芸名をつける。(映画の原題は”August Rush”である。)
たまり場に警察の手入れがあり,逃げだしたエヴァンはゴスペルの歌声に誘われて教会に入り込み,そこで一夜を明かす。翌日,ゴスペルを歌っていた少女に手ほどきされた音符を使って耳に入る音を楽譜に書きあげ,さらにパイプオルガンを弾き始める。
この様子を見た神父は,エヴァンをジュリアード音楽院に連れて行き,頼み込んで入学させてもらう。エヴァンはその時も本名を名乗らず,オーガスト・ラッシュで通す。
エヴァン(オーガスト)は耳に入る音を楽譜に取り入れ,狂詩曲を書き上げる。その曲はニューヨークフィルがジュリアードのために演奏するセントラルパークでの公演会でオーガストの指揮で披露されることになる。
しかし,オーガスト指揮の広告を見たマックスウェルが公演の前日にジュリアードを訪れ。父親と称して,エヴァンスを連れ出してしまう。エヴァンスは,一旦はマックスウェルに従うが,意を決して逃げ出し,セントラルパークに向かう。
失意のライラは演奏活動を止めていたが,臨終の床にある父から自分の子どもが生きていると聞き,さらにその子どもが孤児院にあずけられたことを知って訪ねるが,エヴァンが行く不明であることを知る。住まいのシカゴからニューヨークに引っ越し,エヴァンを探すがその名前の子どもは見つからない。
ライラはかねてから要請されていたニューヨークフィルとの共演を引き受け,自分のチェロの音をエヴァンに届けようと決意し,セントラルパークでの演奏会に臨む。
ルイスはやはり失意からバンドを止めていたが,兄からの強い要請で復帰し,ライラへの思いを込めた歌を歌う。そして,ライラがシカゴにいることを知り訪ねるが,すでに引っ越した後だった。
空港でふと気が変わり,ルイスはサンフランシスコに帰らずにニューヨークに向かい,ライブハウスに売り込み,バンドを呼んで演奏会を催し,喝采を浴びる。その帰路,道でギターを弾いているオーガスト(エヴァン)を見かけ,お互いに父子とは知らずに名乗り合い,ギターのセッションをする。(このシーンは泣かせる。)そして,オーガストがその夜自分の演奏会があるが行けそうにないと聞き,自分なら絶対に行くと励ます。
ルイスは仲間と空港に向かう途中のセントラルパークで,オーケストラの響きを聴き,広告にライラとオーガストの名前を見て,タクシーから飛び降り公演会場に向かう。
かくして,3つのおとぎ話は音楽に引き寄せられて1つになり,大団円を迎える。
エヴァンを演じるフレディ・ハイモアの演技は,巧まずして人を惹き付ける。公園のざわめき,街頭の騒音が全て彼の中で音楽になる。彼にとって音楽は天から降り,まだ見ぬ両親に向かって発せられる。
徹底した悪人は登場しない,善意と愛とペーソスが満たされた映画である。また観たい。
STOP WAR!