博多住吉通信(旧六本松通信)

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もう一つのアポロ計画

2021年03月20日 | 読書・映画

「宇宙大征服」(原題Countdown ロバート・アルトマン監督1967年制作 アメリカ映画)という映画を見ました。邦題が何だか大げさな感じで余り期待していなかったのですが、実際にはたいへん面白い映画でした。

 1967年、アポロ計画を準備していたアメリカNASA関係者は大いにあせっていました。ソ連がロシア革命50周年を記念して月に有人宇宙船を送るのではないかと予測されたためでした。実際に1964年にソ連はボスホート1号という3人乗りの「大型」宇宙船を打ち上げており、次は月へ向けたボスホート宇宙船の打ち上げの発表をソ連政府が行ったためでした。一方、アメリカのアポロ計画は、1967年2月21日に行われたアポロ1号の地上試験中の火災事故でガス・グリソム船長他3人の宇宙飛行士が焼死するという大惨事により設計見直しなどで頓挫していました。

 あせったNASAは途方もないプランを実行することにします。既に実用化されていた2人乗りのジェミニ宇宙船を改造して1人の宇宙飛行士をソ連よりも先に月に送り込むというプランでした。ジェミニ宇宙船は地球周回軌道上で様々な工学実験を行うための宇宙船で、月往復飛行や月面着陸・離陸などを行う能力はありません。そのような能力を全て備え持った宇宙船を打ち上げることが可能な大推力ロケットはアポロ計画のために開発されたサターンⅤ型ロケットしかないからでした。ジェミニ宇宙船に月面着陸装置を強引に取り付けて飛行士を月面に送ることまではできても、そこから地球に戻すことはできないのです。そこでNASAはジェミニ宇宙船とは別に、1年間宇宙飛行士を月面で生存させる酸素、水、食料、生命維持装置を搭載したシェルター宇宙船を先に月面に着陸させ、そこで飛行士を生存させ、1年後に完成したアポロ宇宙船を送って飛行士を救出するという、 もう聞いただけで卒倒しそうな狂気のプランを実行するというストーリーでした。実際にそういうプランはあったというからびっくりです。

 つまり、この映画は「ありえたかもしれない、もう一つの別の(アポロ計画の)未来」を描いた映画だということです。映画は細部まで良く作りこまれていて感心しました。実在のジェミニ宇宙船の細部や、飛行士の腕時計がオメガスピードマスター(アポロ計画に採用された公式腕時計)であることなどです。そして選抜される飛行士は非軍人の文民でなければならないという方針がアメリカ政府の中にはあって、そのことが飛行士の人間関係の軋轢をもたらすなど、映画公開後にアポロ計画の中で実際に起こったことが予測され描かれていたそうです(これは映画評論家の町山智浩さんの解説で知りました)。お薦めの映画です。


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