博多住吉通信(旧六本松通信)

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アレクサンドリア

2013年07月17日 | 読書・映画

 「アレクサンドリア」(2009年 アレハンドロ・アメナーバル監督 スペイン)という映画を見ました。西暦4世紀のキリスト教が勃興する末期のローマ帝国アレクサンドリアに実在した自然哲学者ヒュパティアを主人公とした映画です。ヒュパティアは現代であれば天体物理学者と呼ばれるべき女性でした。当時のアレクサンドリアは学芸の一大中心地でした。蔵書70万巻を数える大図書館があり、そこでは様々な科学実験、天体観測、そして教育が行われていて、主人公はそこで研究と教育に従事していました。一口に70万巻(当時の書籍はパピルス製の紙の巻物だったので巻と数えます)といっても、印刷術もマスメディアも存在せず、全ての書籍が手書きで1巻1巻作られていた時代の70万巻ですから、いかに突出した図書館であったかが分かります。映画の中でヒュパティアは科学実験によって慣性の法則を発見したり、地球が太陽に対して楕円軌道で公転している(今日でいうケプラーの法則のこと)という推論を行っています。ヒュパティアの業績は彼女の悲劇的な運命と共に失われ今日ではほとんど残っていないので、これらのエピソードは映画の中の創作のようです。ただ、彼女の合理的な思考様式を考えると、こういうことが仮にあったとしてもおかしくないかもしれないとは思います。しかし当時のアレキサンドリアは急速に勢力を増していくキリスト教会の支配下に陥り、古代ギリシャ・ローマの学問は異端として排斥される運命にありました。ヒュパティアは狂信的なキリスト教徒の集団に惨殺されてしまいますし、大図書館もまた粉々に粉砕されてしまいます。このあと1000年に及ぶ中世暗黒時代がやってくるのです。

 映画を見ていて思ったことは、もしヒュパティアが生きながらえて、中世暗黒時代が無かったとしたら、人類の歴史はどうなっていたかということです。慣性の法則の発見からは、今日でいうニュートン力学の体系化まではあと一息です。実際、ニュートンの84年の生涯の間に体系化された訳ですから。そうなれば月への宇宙飛行の科学原理は手に入ったも同然で、あとは技術的な課題を解決できれば、そう、もしかすると西暦7世紀頃に人類は月へ行けたかもしれません。

 でもそれは全くの幻想でしかありません。古代ローマ(そして古代ギリシャも)は奴隷制で支えられた社会でした。キリスト教が勢力を伸張できた理由は「神の前の平等」を説くキリスト教が大勢の奴隷たちの心を捉えたからです。映画の中でもヒュパティアに仕える奴隷ダオス(この人物は創作だそうです)が急速にキリスト教に惹きつけられていく様子が描かれています。奴隷制に基礎を置く古代ローマが長続きできなかったのは必然のことでした。(続く)


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