水中用懐中電灯の光が、海底に沈む長大な豪華客船に当たった。
この豪華客船は、一週間前に消息を断ったばかりの沈没船だ。
僕はそういうのを発見するのが好きで、単独で調査にやってきたのだ。
ここに来る途中にあった岩礁が少し削れていたので、それに衝突し船底に海水が入って沈没したのだろう。
少々見付けるのに手間取ったため酸素ボンベの残量が心配なので、手早く調査しよう。
まずはぐるりと船の外周を回ってみた。
救命ボートは1艇を除いて全てなくなっている。
聞いた話だと、助かった乗客乗員はいないはずなんだけどな……
切り離したはいいが、沈没に巻き込まれたのかもしれない。
船内に入ると、さらに不思議な点があった。
乗客のどの部屋も、沈没に慌てた様子が見られない。
それどころか、荷物は全て置き去りになったままだ。
食堂には、おそらく乗客全員だと思われる人数分の亡骸がテーブルに座っていた。
そして調理場にはシェフやボーイの亡骸がある。
おかしい……乗客は救命ボートで逃げたんじゃないのか……?
船が沈む中、どうしてこんな所に集まっていたんだ……?
疑問に思いながら、さらに船内の探索を続けることにした。
少し傾いた船内を進み、やっとのことで操舵室に辿り着いた。
制服がボロボロになった十数人の乗務員の亡骸が無残に浮き沈みしている。
奥には艦長と思しき人物の死体もあった。
この艦長は航海ルートに忠実で、決して事故を起こさないことで有名だった。
とはいえ、彼も人間だ。ミスをやらないわけがない。
何か沈没に関することが分からないか、室内を漁ってみた。
沈没直前の航海日誌は見当たらなかったが、一人の乗務員が握っていたメモを見付けた。
インクがぼやけていて、『船底金庫』という文字しか読み取れない。
そこに、何かあるのだろうか……
船底金庫に到着したが、ボンベの残量が厳しいため長居はできそうにないな。
特に変わった様子はないが、閉じた金庫の扉から僅かに気泡が漏れている。
中にはまだ空気が残っているのだろう。
鍵は解かれているようだが、開けると金庫内に流れ込む海水に巻き込まれそうだ。
見たところ扉の構造から、一度閉じ込められたら中から開けるのは困難だろう。
仕方がないが、今回はこの辺で引き上げよう。