睡蓮の千夜一夜

馬はモンゴルの誇り、
馬は草原の風の生まれ変わり。
坂口安吾の言葉「生きよ・堕ちよ」を拝す。

落石

2009-07-22 00:52:59 | ひびつれづれ

1999年8月14日、
丹沢・玄倉川のキャンパー事故は信じられないような出来事だった。
いくらなんでも中州や対岸(山側)にテントを張るキャンパーはいない

だろう。いや、いるのだ、ここに。

8月のある日、
早朝、釣り竿とキャンプ用品を車に積み込み、意気揚々として家を出た。
清らかな水の流れる中津川は、まだ渓流の面影を残している。
落ち込みと瀬が連続する橋の下は大人も泳げるゆったりとした淵があり、
土日は釣り人とデイキャンパーでいつも賑わっていた。

淵の下流の浅い瀬を渡渉した対岸に細長くひろがるちいさな砂浜がある。
真っ黒に日焼けした子供たちが、腹這いになって甲羅干しをしていた。
陽が傾きかけた夕方、無謀にも、そこにテントを張った。

満月が照らす快晴の夜と仲間と呑んだ酒が危機感を遠ざけたのかも

知れない。ほろ酔いのままシュラフに横になり、しばらくしたら、
不定期にテントを打つ音がする。


パラ・・パラ、コツン・・ゴツッ・・ピシッ・・・・と、何とも言えない

不気味な音だ。耳を澄ませて気配を窺っていたとき、
ふいに、頭の上にゴトッと落ちるものがあった。落石だ!、
夜半の風に誘われるように山の上から無数の細かい石が落ちてくる。

夜中にあせりまくって撤収したテントを小脇に抱え、バシャバシャと
川を渡り、一目散で対岸に駆け出した。
川から最も遠い道路下に張り直したテントに収まり、お互いの顔を
見合わせてやっと人心地がついた。

その後、山や岩にも登るようになり山屋の先輩にその顛末を話したら、
彼は目をむいて怒り、こんこんと諭しながら山行露営のノウハウを
おしえてくれた。

渓流釣りのお供をしたときも、県境の局地的な雷雨をやり過ごしたとたん、
あれよあれよという間に川幅いっぱいに水かさが増えたのを見た。

おかげで、高巻やヘツリを覚えたのは怪我の功名だが、今思うと、
無謀なことをした。自然の声に耳を澄ませる謙虚さを持たないと、
自然は思いっきりシッペ返をする。
その半年後、彼の地はがけ崩れに没し、小さな広場はガレ場と化した。




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