地方無視で「改革」を進めれば、現場・行政は大混乱
安倍政権が進める「改革」はまるで空気のように日本の農林水産業を覆い、成長産業化の方向は揺るがないように見える。さて、漁業権をめぐる規制改革は今後、具体的にどうなるのか?水産庁が各方面の了承を得た「水産政策の改革の方向性」では、養殖漁場について「有効活用されていない水域は新規参入が進みやすい仕組みを検討する」としているだけで、あまり改革のイメージが明らかでない。しかし、区画漁業権の更新は30年9月1日に迫っている。
巷間言われている特定区画漁業権への企業参入促進、あるいは都道府県‐漁協という従来の免許の系列とは別に知事が優先許可する「水産業特区」を制度化するといった、露骨な企業利害の主張は薄く、なんとなくソフトな印象だ。
ところが、養殖が盛んな西日本の漁業調整委員会では「漁場計画の樹立」について強い危機感が表明され、問題提起がなされている。
水産庁は、29年6月9日付で水産庁長官名の「技術的助言」(従来は指導通達)を出している。総論の部分で、民間企業による参入ニーズについて「漁場環境、当該漁場における区画漁業の実績、漁場周辺のインフラ等、参入の際に参考となる情報の積極的な発信に努めるとともに、漁業者や関係組合等の意向を的確に把握しつつ、漁業者や組合等と企業とのマッチングを推進し、漁場計画を柔軟に検討していく」と4月に決まった新しい水産基本計画の内容がいきなり出てくる。計画は即実践に生かすという姿勢はわかるが、「参入ニーズ」が具体的に何かは明らかではないし、まさか次期切替までに制度をいじる時間はないはずだ。
自民党の行政改革推進本部(行政事業レビューチーム水産庁特別班)は7月に「区画漁業権の運用見直し」を提言している。この中では①養殖企業が徴収される漁業権行使料や水揚げ協力金など費用の透明性を確保し、経営の監査や検査を厳格化する。②適切に利用されていない漁場に円滑に参入できるようルールや養殖漁場の運用管理を見直す。③資本・生産・経営・雇用・技術など“集積化”を進め、「水産業復興特区」の参入者の活動を阻害する規制がないか再度検証し、積極的に対応すべきとしている。
こうした中で、12月11日に開かれた「全国海区漁業調整委員会連合会」(全漁調連)の会長・副会長会議では、濱本俊策副会長(香川県海区漁業調整委員会会長)から提案のあった「漁業権一斉切替にむけての水産庁との協議」が行われ、一定のやり取りがあったが、水産庁からは先にあげた情報以上の内容は明らかにならなかったようだ。濱本副会長によれば、10月の西日本ブロックで、自民党の提言に対する水産庁の考え方の説明を求めたが、内容が不明だったため、再び明確な説明を求めた経緯がある。それより前、水産庁の技術的助言を7月に開かれた香川海区漁業調整委員会で説明した際に「企業参入の積極的推進」を国が求めてきたことに「到底容認できない」と各委員会から強い批判が出た。企業参入の積極的推進に国が取り組むことは、現行の漁業法、漁業免許制度を無視することになりかねず「漁業や行政の現場に大きな混乱を生じさせる」という危惧がもたれている。
水産庁の文書には「企業参入」や「企業とのマッチング」との言葉が多用され、現下の「規制改革の流れを先取り」あるいは「なし崩し的に既成事実化している」との疑義を生じさせている。これは、中央での議論ばかりが先行し、地方レベルでの情報開示が極めて少なく、議論がスルーされてきたことも大きな要因となっている。
都道府県知事による漁業権免許、組合管理漁業権の民主的かつ合理的な運用、漁場計画を審議する機関である海区漁業調整委員会が企業参入の免許申請(知事からの漁場計画諮問)についてどう対応するのか。制度の根幹に及ぶ重大事項として西日本以外のブロック、連合海区でも議論して意見集約すべきと濱本副会長は訴えている。水産庁からの情報提供、納得のいく説明がなければ、「誤解」と不信が広がり事態はいよいよ悪化しそうである。