こぶた部屋の住人

訪問看護師で、妻で、母で、嫁です。
在宅緩和ケアのお話や、日々のあれこれを書き留めます。
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かなわない思い。

2009-12-25 23:24:37 | 訪問看護、緩和ケア
昨夜、一人の女性がそっと眠りに就いたまま、旅立ってしまいました。

もう一度、目を開けて笑ってくれることを願っていた、愛する夫や子供たちを残して・・。
一緒に食べるはずだったクリスマスケーキは、今はそのまま彼女の祭壇におかれています。

数日前、やっとの思いで自宅に帰ってきました。
やせ細った体を、夫が2階の住居まで抱いて上がったのです。

跡取り息子は、母の姿になかなか向き合えずにいました。
高校生の娘は、本当にしっかり者で、いつも父親を支えて、病気の説明もなにもかも、一人で受け止めて涙を見せずに母を笑顔で介護しました。

笑顔で「おはよう」や「お休み」が言える事。
そんな当たり前のことが、こんなにも早く言えなくなってしまうなんて・・

「いてらっっしゃい!」と見送ることが、こんなにも早くできなくなるなんて・・

子を残す母がどんな思いで、娘の手を借りていたのでしょうか?
お母さん子の兄が、一人で泣いているのを、どんな思いで見ていたのでしょうか?

それでも家族は、いつも笑顔でお母さんの周りに寄り添っていたのに。

なんて、私たちは無力なのだろうかと、なんでもう一度「おはよう」を言わせてあげられないのだろうと、できもしないのに、そんな思いにばかりとらわれて・・

私たちには、想像もできないほどの絶望や悲しさを乗り越えてきたであろう、この愛すべきご家族を前に、言葉を失っている自分がふがいなくて・・・

そんな思いをかかえて、午前中にお顔を見に行きました。

でも、家族はしっかりと現実を受け止めていました。
脳天気なお父さんを演じていても、本当は強いお父さんなのでしょうね。
今は涙を見せず、あれこれ動いているお兄ちゃんと、やっと涙を流せた娘さんが、彼女の残した宝物です。
決して誰のせいにもせず、その別れを家族でちゃんと受け止めていました。

娘の施したお化粧は、睫毛までもクルリとカールさせて、本当にきれいなお母さんでした。
「お母さん、きれいね。」
「うん」彼女がうなずきます。
ずっと、母の亡骸のそばで、膝を抱えて泣いていたようです。

きっと素敵な娘さんになると思います。
この子は、みんなに守られて、素敵な女性になりますよ。
あなたのように。

心の中で、そう話しかけて帰ってきました。

本当は力になりたくて、支えになりたくて出かけて行ったくせに、逆に支えてもらったような気がします。

幾度となく繰り返される別れのお手伝いを「なりわい」としている私たちですが、
決してなれることはありません。
その苦しみに寄り添いながら、またそこから救われるのも私たちなのだと感じています。