『大鹿村騒動記』を観てきた。
村民が演じる村歌舞伎が誇りの村、長野県大鹿村。
「なにもないったって、歌舞伎があるんだよ」
台風が北上する中、村はリニア新幹線の誘致問題で揉めていた。
”リニアが開通すれば、この村には若者が帰ってきてくれる。そうすれば、村は活気付く。”
”何言ってんだ、開通ったって40年も先の話だろ?おめぇらみんな死んじまってるでねぇか。”
なんて、喧々諤々。
いざ始まった歌舞伎の練習も、この誘致問題も絡んでか上手くいかず。
仲間をまとめながら、風祭善は村をあっちへこっちへ忙しい。
そんな折、なんと18年前に駆け落ちで家を出ていた妻、貴子とその相手、治が帰ってくる。
しかも、妻は痴呆にかかり、何も覚えていない、分からないという。。。
バタバタと妻に振り回される善。
台風の嵐の中、歌舞伎の仲間の一人が大怪我負い、出演が不可能に。
さらに妻がどこかに姿を消してしまう。
愛憎あいまみれた内容だけれども、全てがコミカルに描かれていて面白い。
人間の色々な側面が見れる映画。どのキャラクターも【いるよな、こういう人。】と思わせる。
善という男のつっけんどんだけれども、根の優しさが隠せない様。
貴子という女の、一時の感情に流されてしまい後悔しながらも、どうしようもない弱さの露呈。
治という男の、計画的なようで無計画で、バカなんだけれどそれなりに上手く生きていく力強さ。
色んな人間がいて、尖がってぶつかってを繰り返しながらも、時間をかけて、そして時間が経つことに頼って、分かり合っていく。
そうやって、なんとなくでも社会は動いているのだ。
原田芳雄さんの遺作になってしまった。
『ウルトラ・ミラクル・ラヴストーリー』や『座頭市THE LAST』『アナザ・ヘヴン』『オリヲン座からの招待状』『たみおのしあわせ』など、俺が見ただけでもこれだけ沢山の作品に登場している。
【タモリ倶楽部】で電車の話をする時の目の輝きも印象的だった。車窓から目を離せずに、弁当の箸袋を開けようとして「開かないよ、これ!」と駄々をこねていたのがとても面白かった。
71歳というと、亡くなるにはまだずいぶん若い気がする。
この映画のラストで、あの独特の眼差しで「again?」というシーンがある。
出来れば彼に、「もう一度」と言いたい人は多いはずだ。
ご冥福を心よりお祈りいたします。