第２章 怒涛の日々 １９．

１９．
　電車の中で、ついて来られて迷惑そうな息子と少し離れ、窓を流れる景色を追った。でも、考えはいつも同じところに収斂(しゅうれん)した。－どうして私はがんになったのだろう？－

　乳がんになりやすい危険因子がいくつかあるらしい。
・　初潮が早い／月経周期が規則正しい／月経周期が短い／閉経が遅い
・　出産未経験／高齢出産経験
・　家族に乳がん罹患者がいる
・　良性の乳腺疾患の既往
・　子宮体がん・卵巣がんの既往
・　長期間ホルモン補充治療を受けている
・　肥満／脂肪の摂取量が多い
・　多量の飲酒
・　喫煙
・　ストレス

　多量の飲酒・喫煙・ストレスは他のがんと同じ理由だろうが、他の因子の根拠は、乳がんが女性ホルモンへの依存度が高いことにあるよう
だ*。

　私の場合、当てはまると言えば、月経周期が規則正しいことくらいだ。
　あとは、強いて言えば脂肪の摂取量か…。どちらかと言うと痩せているのだが、ここ数年コレステロール値が高めだったので、それが原因だろうか？　でも、標準値の範囲での高めだったという程度で、コントロールが必要なほど高かったわけではないし、２年前からは中間の値に戻っている。確かに揚げ物とか生クリーム系のものが好きではあるが、そんなに摂っているとも思えなかった。外食も決して多くはないと思う。

　あとは、ストレス…？　専業主婦の気ままな暮らしをしていて、がんになるほどのストレスがどこにあったというのだろうか？　それとも、今目の前にいる息子が原因か…？　自然気胸を抱えながら自宅浪人させたし、受験に際しては文字通り寿命が縮む思いもさせられた。でも、がんは何年もかかって増殖すると聞くから、昨日や今日に端を発したことではないだろう。

　ひょっとして、被爆二世であることと関係があるのだろうか？　原爆の二世への影響については、まだ何ら明らかにされてはいないので、因果関係は全くわからない*。

　最終的には、いろいろな因子が複合して起こった結果なのだろうから、何がどうと明確に言えるものではないのかもしれない。とにかく、これと言って当てはまるものはあげられないのだ。－どうして私はがんになったのだろう？？？？？－　永遠に答えの出ない謎のように、このときは思えた。


* http://www.sutaa.net/nyugan/0001/0104/　に、乳がんと女性ホルモンとの関係等、詳しく解説されている。

* 2007年3月2日の朝日新聞朝刊によると、広島・長崎の被爆者を親にもつ被爆二世を対象にした、「放射線影響研究所」による2000年からの大規模調査の結果、「６種類の生活習慣病について、親の被爆によってリスクが高まる証拠は現段階では見られない」ということだ。ただし、対象になったのは糖尿病・高血圧・高コレステロール血症・心筋梗塞・狭心症・脳卒中の６種類で、がんはなぜか含まれていない。